第一話 〈ナインズ〉1
星の海を駆ける船の中、彼らは目を輝かせ目の前の星を見ている。
その星の名は『ナインズ』。
緑が五割、青が三割、赤が二割の表面をした惑星である。詳しい惑星の状態のデータは無く、水と酸素のみある事が確認されているだけである。
「ねえ、ちょっと疑問なんだけど」
ふと、思いついた顔でユミが疑問を口にする。
「どうしたの、ユミ」
「いやね、あの惑星には、宇宙船の船着場なんてあるのかなって」
それを聴いて、ぼくは、
「······たしかに」
そう、思った。
何故かと言えば、それは簡単で、僕らの故郷にはそんなもの無かったから。来る者拒み、来た者には最大限の返礼という名の傷を与える。それが普通としてなってしまうと、どうにも船着場なんてあるのか不安になる。
「まあ、それでもさ、当たって砕けろって言うからね」
「その言葉が一番不安よ······まあ、それでも臨機応変に対応しましょうか」
そう考えを纏めると、僕らは胸の好奇心を抑えながら、船の食堂に向かった。
清潔感のある食堂で、メニューを選び、AIに注文する。やはり、あの惑星を抜け出しても、この生活スタイルは変わらない。
食事はAIに作らせた方がおいしいし、効率を考えたら、やっぱりこうなってしまう。
僕が頼んだのはバターチキンカレー。カレーの中では一番に好きな料理である。
ちなみにユミが頼んだのはきつねうどんである。
食事を受け取り、席まで運ぶ。かなり小型の船であるので、席なんていっても五席程度しかないのだけど。
「いただきます」
席に着き、食べ物への感謝の心は忘れずに食べる。ユミも同じように挨拶をしてきつねうどんを啜っている。
そうしてほんの少し時が経った後、食事を終えた僕らは、船の中で一際大きい窓の前に立って外を見ていた。
「そろそろだね」そう呟くようにユミが言う。
「そうだね」
もう星はあと少しで三千キロメートルという所まで来ている。
この変な感じの空気に耐えられず、ぼくは会話の話題を提供する。
「ところでさ、荷物の準備は出来てる?ユミさん」
「とうぜん!こんなに楽しみなんだもの。しっかり準備は終わらせてるわ」と彼女は心底楽しそうな笑顔でそう言った。
もう興奮は隠しきれないところまで来ているみたく、先の会話だけで、ユミのわくわくは見て取れる。そういう僕も凄くわくわくしてるけど。
「そういうあなたは大丈夫なの?」
反撃を仕掛けるユミさん。
「ふふん。問題なんて一つもありません」
胸をはって彼女にそう伝える。彼女は結構結構と頷いていた。
そろそろ三千キロメートル圏内に入る。そして、三千キロメートル圏内に入った時、突如アナウンスが鳴った。
『通信を受信しました。外部からの通信を受信しました』
びくっと二人揃って身体を震わせる。
「通信って、ナインズから?」
分かりきった質問をする。
『我々がナインズと呼称する天体からの電波の受信です』
心底呆れたという感じでアナウンスさんはそう応える。ちくしょう、機械に感情は要らんのでは。
「やっぱりか······うん、いいよ。回線、開いて」
許可を下す。無視する理由がないからだ。
『了解しました。───“ようこそ皆様、惑星■■へ。この度はお帰りでしょうか?それとも、来訪でしょうか?”』
機械的音声から変わり、生きたものの声が船を木霊する。
「えーと、来訪、です」
できる限り丁寧に。
『“来訪ですね。でしたら、来訪者ゲートまで。案内用に小型衛星をお付けしますので、そちらの指示に従って下さい”』
小型衛星とはあれのことだろうか。
窓の外にいる小さい球体。それが案内方向をホログラムで表示している。
······というか、何で今まで気が付かなかったのか。
「······!」二人揃って息を呑む。
辺りを見れば、そこには数多くの宇宙船がいて、遠目に見た時より輝かしい星がそこにはあった。
来訪者ゲートには宇宙船の行列が出来ていた。まるで遊園地の入場ゲートの行列のように長々とそれは続いていた。
大小様々な宇宙船がそこにはあり、僕らの船のような小型船もあれば、数倍もある大型船もあった。
「すごい······!」
僕らは言葉を失ったかのように、その光景に見入っていた。
僕らの惑星もこのぐらいの発展はしている。が、活気の差が驚くほど違う。
その光景に見惚れている間に、自分たちの番がきてしまった。
「草木満ち溢れる惑星■■へ、ようこそ!」
「あ、はい」
どこぞのテーマパークの人?って対応なんだけど、なんて感想しか出てこない。それほどまでに目の前の光景は自分にとって異質な物だった。
「ご来訪は初めてですか?」
「はい、そうです。この惑星が初めてで」
「そうですか、ならパスポートもお持ちではありませんか?」
なんだそれ。持ってもないし、ぼくら惑星からの家出少年少女なんですが。
「はい。といいますか、ぱすぽーとが必要なんだという事が知りませんでした」
それらしく、普通に返す。
「そうでしたか。それならパスポートの説明からよろしいですか?」
「はい。是非、お願いします」
これはありがたい。ご拝聴させてもらいましょうか。
「はい。お任せ下さい。えーまず、この〈星間運用パスポート〉は、惑星同士の共同連盟である、〈星星共同運営委員会〉の提供する、定期サービスの様な物です。委員会に加盟している星々への入場料を取られなくなります。定期的に一定の額の支払いをしてもらう必要はありますが」
なるほど。ぱすぽーとっていう物はよく解らないけど、要点を纏めると、
「星と星をお得に巡れるってコトなんですね」
「はい、その通りです」
それはいい。これから旅をする身としては必要不可欠なものみたいだ。
「じゃあ、登録って出来ますか?」
「はい!お任せ下さい。それでしたら、こちらにサインと口座を」
「はい、それならっと───へ?」
すらすらっとサインを書いていると、重要な事を思い出す。
そういえば──
「──口座、無いんですけど······」
「───そうなんですか。それでしたら、この惑星で働きお金を稼ぐとよろしいでしょう。お支払いはこの惑星を出るまでに済ませて頂ければいいですので」
「ありがとうございます!」
初めのちょっとの間はおいといて、あまりの親切さに深々と頭を下げる。
「いえいえ、是非、この惑星での短い生活をお楽しみ下さいませ」
ごおお、と音を立ててゲートが開く。
僕ら二人は、ゲートの向こう側を光る目でながめている。
その先に待つ光景に期待を抱きながら。
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