第97話 変異種1
僕のその疑問は当然の事だと思う。じいちゃんとの二人きりの生活で、僕はダンジョンについて様々な事を聞かされて育った。
じいちゃんからすれば教育のつもりだったのかもしれないが、僕からすれば、それは現実感の薄い何処か物語めいた話に聞こえたのだ。
だから何度も話をせがむ僕に少し困惑ぎみだったじいちゃんが、変異種などと言う変わり種の話を知っていれば、きっと聞かせてくれたに違いない。
そう変異種というのは、三十層まで到達したじいちゃんでさえ知らないような存在かもしれないのだ。
「そうね~、貴方が知らないのも無理ないわね~、勝手に話を進めて、ご免なさいね~」フィーネがふよふよ飛びながら謝罪してきた。
「ユーリ、貴方はダンジョンの役割について、シルフィーから話を聞いてるわよね?」サラの何時にないような真剣な表情に僕は黙って頷いた。
「変異種という名は、ダンジョン内の遺跡から発掘された資料を、遺跡研究所が解読した結果、知られるようになった現象なの。長期間放置されていた魔物にダンジョン内の魔素が更に吸収され生まれる存在らしいわ」
サラはそう言うと、暫く黙り込んでしまったが、意を決したような表情で口を開いた。
「私達は、変異種の存在その物が、『兆候』じゃないかと考えているの」
◻ ◼ ◻
今日はもう襲ってこないだろうというフィーネの推測と、この大量のレッサーウルフの死骸をギルドに突き付ける為に、僕達は魔素吸収を行った後、すべてのレッサーウルフの回収を行った。
「この袋を使いましょう、次の遠征用に準備された物だけどミリア様が貸して下さったのよ。まさか使う事になるとは思わなかったけど」
サラが取り出した袋は、大きな物で僕がディーネを入れて猪鹿亭まで運んだ小麦袋くらいあった。
かなりの収納力があり、三十匹ものレッサーウルフの死骸が全て袋に収まってしまった。
「遠征時の食糧運搬用に作られた品だけど、収納性能は文句なしね。只の袋で作るのが簡単だから採用されたらしいけど、持ち運びを考えたら、もう一工夫欲しいところよね」
サラがその生産性のみを考えた只の袋をそう評していると、「これを内袋にして背負えるようにした鞄とか、レッサーウルフの革で作れば面白そうなんだけどなあ」袋に興味津々なリーゼがそう言うと、ルナとキャロも集まって来て、色々と話し合っている。
レッサーボアの革で貫頭衣を作ったり、レッサーラビットの革で小物や簡単な衣服を作ったりするようになって、孤児院の女の子達は革で何かを作る事に夢中になっているらしい。
僕はそんな彼女らの姿を眺めて愉しい気分になったが、先程、サラ達から聞かされた変異種の事が頭から離れなかった。
(兆候らしき物が現れるのは、まだまだ先の事だと思っていたんだけど)
僕はダンジョンの危機などと言う、自分にはまだ重すぎる悩みを抱えて、三層のこの場所を後にしたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます