第98話 変異種2

 魔素吸収を終え、試しに短杖の【風刃】をレッサーウルフの死骸を使って試してみると、吸収前に比べれば格段に威力が上がっているのが分かった。


 (これなら、牽制役以上の働きも出来そうだ)


 僕が成長していれば、ディーネやルピナスも成長するのだ、今なら僕と召喚精霊達だけでも、六匹程度は同時に相手できそうだ。


 実際のところ、四人が来てくれなければ、同時に三十匹を相手にする事になったかもしれない、そうなれば、サラやフィーネはなんとか凌げたとしても、僕は危なかったかもしれない。


 (安全圏と言われる三層でこれだ、やはりダンジョンは油断出来ないな)


 以前ゼダさんに、階層攻略はどれだけ準備しても事故はあり得るし、常に格上との戦いだと注意された。


 僕は、下層に降りれば、終わることの無い格上との戦いが続く事の恐ろしさを改めて実感したのだった。


◻ ◼ ◻


 三十匹もの魔物の魔素吸収を行った事で、更に魔力量が増加したのだろう、三層から地上まで走り抜けても誰一人として音を上げる者はいなかった。


 しかし、ダンジョンから帰還して地上に戻った僕達は、三層での緊迫した戦いで、すっかり精神的にも肉体的にも疲れきってしまっていた。


 いくら魔力量が上がって強化されたとしても、疲れる事無く行動出来るようになるわけでは無いのだ。


「すっかり疲れちゃったけど、急いで報告に行ってくるわ、ギルド側は任せても構わない? 変異種の件は報告するかどうかは、貴方の判断に任せるわ……そうね、出来れば信頼出来そうな人を選んでね」


 僕は頷いて「信頼している人の息子さんが、ギルドの買い取り係にいるので、その人に相談してみるよ。流石に三十匹もの獲物をこのままにしておけないからね」


「もし、担当者で話を止める事になったとしても、ミリア様の判断次第では、ガザフ領主経由でギルドに通達が行く可能性もある事を伝えて」ある意味、脅しとも取れるような事を言うと領主館の方角に向かった。


 (ゼンさん、今日もいるかな?)


 僕はゼダさんの息子のゼンさんに、エルフィーデ女王国がらみの訳ありである事を伝えて、ギルドの上層部に報告して貰うべきか判断して貰おうと考えた。


◻ ◼ ◻


 ギルドの買い取り所にはゼンさんが居てくれたのでほっとした。ティム達も、買い取り所に興味があったようなので、一緒に付いてきている。


「よお、今日はお前さん一人じゃないんだな」ゼンさんはいつもの気軽な態度でそう挨拶してきた。


「この子達は孤児院の子達で、ダンジョン探索者ですよ」


 ゼンさんは四人を見渡すと、「お前さんが、探索者と言うからには、それなりの実力はあると考えていいのかな?」


 この人は軽い調子でも、鋭い所がある。そう言うところはゼダさんに似ているのかもしれない。


「ええ、今日は一緒に三層に行って、今帰ってきた所です」


僕がそう説明すると「なるほど、少なくとも蜂程度は倒せるって事だな」


 ゼンさんは一人納得したように頷いている。僕は話が逸れても困るので直ぐに本題に入る事にした。


「今日、レッサーウルフの大群に襲われました」僕は余計な説明を省き結果だけを伝える事にした。


「群れじゃなくて、大群? 何匹ぐらいだ?」ゼンさんは僕が大群と言った言葉を聞き逃さなかった。


「総数は四十匹程度で、倒したのは三十匹です。大群を率いているリーダーの存在も確認しました」


 ゼンさんは普段からは想像もつかないような真剣な表情になり、「それを証明出来る物は持ってるのかい?」と尋ねてきた。


 僕はサラから預かっていた袋を見せ、「これにそのまま入っています」そう言いながら、ゼンさんに手渡した。


「お前さん、これエルフィーデの……いや! 今はそれどころじゃねえな! とにかく倉庫に来てくれ中身を確認する。詳しい事は後だ!」


 ゼンさんを先頭に、僕と四人は倉庫と思われる場所へ移動するのだった。

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