第96話 三層7
偵察に行ってくれたフィーネが戻るなり、面倒な事になりそうと言われて、僕達は身構えてしまっていた。
「またすぐ襲って来そうなの?」サラが心配そうに尋ねた。
「問題があるなら、直ぐにでもこの場を離れようか?」
僕もあれだけの数の敵を相手にした後に、同じ場所に留まり続けているのは、いくらルピナス達が警戒してくれているとはいえ、些か呑気過ぎたかもしれないと反省した。
「今日の所は、問題ないと思うわ~、数を減らされたからでしょうね、群れはひたすらこの場を離れて行ってるようだから~」
僕はそれを聞いて、内心で安堵しながらも、「それなら特に問題無さそうだけど?」と尋ねた。
サラも「こちらの実力は分かったのだから、恐れてもう襲ってこないんじゃない? 警戒心が強いみたいだし」
確かに、群れより多い相手を襲わないくらい警戒心も強いし、頭も魔物にしては良さそうだ。
「それがね~、普通のレッサーウルフなら、そう問題にならないんだけど……どうも変異種じゃないかと思うのよね~」
「変異種ですって‼」サラが叫んだ、どうやら変異種という物を知っているみたいだ。
「そうなのよ~、逃げていく群れを追いかけてたら、群れを統率しているリーダーらしき個体を見たのよ~。他の物とは明らかに違う姿でね、毛並みが白くて、頭に角のような物が生えているのが見えたわ~」
僕は側に倒れているレッサーウルフの灰色で角の生えていない死骸を眺めた。
「角があると言っても、ファングウルフとも色が違うようね」サラはファングウルフの色を知っているようだ。
僕がザザさんに借り受けた、手足の防具がファングウルフの革で出来ていて、焦げたような茶色なのだ。
「仮にファングウルフだとしても問題よ~、六層の魔物が三層にいるってだけでもね~」
ダンジョンでは下の層の魔物が、上の層に現れる事は無いと言われている。過去の情報から導き出された結論らしいので、完全にとは言い切れない。だが、ダンジョンが発見されてから、そういう例が無いという事からダンジョンの常識として探索者は理解している。
現に発生する魔物は階層毎に決まっている。そして、魔物と戦っていた探索者が上の階層に逃げた場合は、魔物は諦めて追ってこないという例も幾つも報告されているらしい。
「この件、ギルドに報告したとして、信じて貰えるかしら?」サラが考え込みながらそう言うと。
「そうね~、とにかくここにある大量のレッサーウルフの死骸を持って帰れば、異常事態が発生している事は理解してくれるんじゃないかしら~」
確かに三十匹以上のレッサーウルフを持ち込んで、状況を報告すればギルド側も無下には扱わないと思われた。
勿論、僕達がレッサーウルフの群れを意識的に集めて乱獲したと言われれば、それまでだが、そこまでして虚偽の報告をする意味も無いのだ。
「もし、ギルドが取り合ってくれないなら、ミリア様に報告するしかないわね~」フィーネの言葉にサラが、「変異種だとしたら、先にミリア様に報告すべき案件かもしれないわよ?」
「そうね~、それが良いかもね~」フィーネとサラの間で今後の方針が決められたようだ。
事の成り行きを、途中から黙って聞いていた僕が「ところで、変異種って何?」と聞いたのだった。
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