第30話 ポーション売りの少女1

 鍛冶屋を出て僕は、夕方まで何をして過ごすか考えていた。


 今日は都市を見て回るつもりだったが、いざ自由になってみると目的が無いと行動できなくなる自分に気がついた。


(……村じゃ、いつも同じ事の繰り返しだったしな……取り敢えずここの商店街を見て回ろう)


 商店街は食材なども色々あるようで見ているだけでも楽しめた。


 しかし、メンテナンスの費用で所持金の大半を使ってしまい、懐事情は寂しくなってしまったので、余計な物は買えなかった。


(……それでも、同じ装備を今から揃えようと思えばダリルさんから聞いた話しから考えると、鋳造品みたいに量産品じゃないから、金貨数十枚の世界かも……)

 

 今さらながら、いくら売り物にならないとはいえ、恐らく本気で処分すれば素材代だけでも結構な額になりそうなのだ。


 そんな物を本当に借りても良かったのだろうか? ……そんな事を考えながら少し上の空で商店街の人波を抜けていく僕だった。


◻ ◼ ◻


 商店街を練り歩きながら途中で串焼きを一本買ったので、どこか人混みの無い場所を探して食べようと思い、辺りに良い場所がないかを探していると…… 

 

 通りの外れで子供が二人、露天商のように商品を並べて何かを売っているのを見つけた。


 僕は何を売っているのか気になって、その場所に近寄り商品を見てみると子供の前にはポーション瓶が置かれていた。


 店番をしている女の子は、十歳くらいのようだ「いらっしゃいませ!」と、僕を見ながら少し緊張した声で言ってきた。


 本物のポーションなのか気になって、「少し見せて貰っても?」


 僕が聞いてみると、疑ったのが伝わったのか、いつも聞かれるのか解らないが


「どうぞ、ちなみに、こちらの薬草から出来ております」と天日干しをしている薬草を指し示した。


 なかなかしっかりした子だなと思いながら、瓶を手に取り、光に透かして見た。


 ポーションからは、魔力が感じられ濁りもない良い出来だ


「良いできだね、一本貰おうかな」


 と言ってお金を出そうとして左手が塞がっているのに気がついた。


 串焼きを持ったままだったのだ……そして、それをじっと見つめる子供……隣に座っていた猫獣人の七歳くらいの子供だった。


 串焼きを動かすと頭も一緒に動いた、耳がピクピクしている。


 その無言の圧力に堪えかねた僕は、「食べる?」と串焼きを差し出した。


「ほんとうに?」と心配そうに聞いてくるので、僕が頷くと「ありがとう!」と笑顔でパッと串焼きを持って少し離れると、後ろを向いて食べ始めた。


「あっキャロ! もう! 知らない人から食べ物貰っちゃダメだって孤児院の先生にいつも注意されてるでしょ……」言ってから気がついたのか……


「あ! すいません、お客様に知らない人なんて……」と慌てて謝ってきた。


「いや、知らない人なのは事実だから、気にしてないよ!」


 そう言いながらポーション代の大銅貨五枚を支払った。


「ありがとうございます……それから、キャロがすいません、孤児院では串焼きとかなかなか食べれないので……」そう礼を言う女の子を見ながら、


(……孤児院ってそんなに食料事情が厳しいのだろうか?……僕もじいちゃんに引き取られなければ、同じ所にいたのかもしれない……)


 内心でそんな事を考えていると、もう他人事には思えなくなってきた。


そんな時だった。後ろから僕に声がかかったのだ。


「すまねえな、其処のにいちゃん、ちょいと訪ねたいんだが……そのポーション本当に本物なのかい?」


 僕が後ろを振り向くと、すこし離れた場所に探索者らしき装備に身を固めた四人組が、立ち止まってこちらを見ていたのだった。

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