第13話 探索者ギルド3

 相談を行う部屋は、テーブルとソファーがあるだけの小さな部屋だった。


僕は情報の開示を承諾した。


「相談内容に関しては、基本的に相談者と担当者の間の秘密厳守とさせて頂きます。但し、担当者が相談内容がギルドへの報告義務があると判断した場合、この限りではございません。勿論、報告する場合は相談者へお伝え致します。それでもよろしいですか?」


 一度決断したのでもう迷いは無かった。この無表情だが信頼出来そうなマリアさんを信じてみようと思ったのだ。


「お願いします」一言だけ言って、開示した転写板をマリアさんに渡した。


「なるほど……ハーフエルフですか。確かにユーリさんは細身で女性的な容姿ですがエルフに間違われる事は無さそうです。ご両親の事をお伺いしても?」


 マリアさんは、僕の返答をある程度予測しているのだろう……少し遠慮がちに質問してきた。


「はい、僕には物心ついた頃から祖父しかいませんでした。その祖父とも血の繋がりはありません。両親の事も探索者だったという事くらいしか詳しい事は知らないそうです」


 僕は何か言い漏らしが無いか考えていたが、伝えるべき事はこれくらいのようなので黙り込んだ。


「なるほど……ご自分がハーフエルフである事を疑問に思われる理由は理解致しました」


 マリアさんは暫く考え込んでから話し始めた。少し残念そうに見える。無表情だけど……


「ですが……せっかくご相談頂いておきながら、真に恐縮なのですが、ギルドでもエルフの方々について其れほど詳しい情報を持っている訳ではないのです。ですから、これからお話しする事は、わたくし個人がエルフ研究者の方が書かれた本から得た知識による推測であるとご理解下さい」


(……エルフ研究者なんているんだ。世の中広いな……)


 僕は黙って頷いた。


「まずは、ハーフエルフについてですが、男性は人種寄り女性はエルフ寄りの容姿になる傾向が高いようです。それから両親のどちらがエルフであるかは、容姿への影響は少ないらしいです。ユーリさんの容姿が人種寄りな事を見ても、この考察は信憑性が高いのかもしれませんね」


「……少なくとも鑑定は正しいという事なんでしょうね……ある程度は納得出来ました」


 僕は、鑑定と研究者に事実を突き付けられる形になった。


(でも、僕がハーフエルフだからといって何が影響する訳でもないか……)


 何処までいっても天涯孤独の身なのだ。この事で誰かが傷ついたり悲しむ訳でもなく僕が納得して受け入れるだけの話だった。


「あとは、精霊魔法について何か身に覚えはありますか?」


 この質問には心臓の鼓動が速くなるのを感じた。身に覚えが有りすぎたのだ……


「い、いえ特には……」


 嘘の下手な僕が慌てているのをマリアさんはじっと疑わしそうに見ていた。無表情で……


「そうですか……エルフの場合、精霊との契約は幼少の頃に行われるらしいです。神授の森の木に宿る精霊と生まれた子供を守る加護を得る儀式を行うそうです。もしかしたらユーリさんも儀式を受けられたのかもしれませんね……でも普通は木に宿る精霊ですので風の属精霊の加護らしいのですが……小石というのは……恐らく土属精霊に関連が……」


「あの……他の属精霊について何かご存知ですか?」


 話が危険な方向に向かいそうなので、僕は慌てて話を変えた。


「……そうですね、ドワーフは鍛治に関係する火属精霊との契約を行うようです。獣人種の方々は幼少期に自然に親しむうちに、浮遊精霊という意思の薄い精霊と知らずに契約し加護を得る事が多いそうです。浮遊精霊は契約主と共に成長し、やがて意思を持つ精霊になるそうです」


 僕は、この浮遊精霊という物に興味が湧いた。


「意思のある精霊って喋ったりするんですか?」


「はい、姿も見えますし、お喋りみたいですよ……それから、意思の無い精霊も契約主には何か言ってるように感じるそうです」


 僕は精霊石に毎日行っている[ごはん]を思い浮かべていた。


「もしかしたら僕も何処かで浮遊精霊の加護を貰ったのかもしれませんね」

 

 僕は完全に嘘とも言えない考えを告げた。


(精霊石に宿った浮遊精霊なのかもしれない……)


「なるほど、小石ですからね……それがいちばん有りそうですね」


 マリアさんは、真実とも嘘とも言えない僕の意見に得心がいったように頷いていた。

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