第14話 街の屋台
相談室から出た僕は、マリアさんにお礼を言ってギルドを出ようと思っていた。
その僕の目の前で探索者がギルドの掲示板に貼られている紙を剥がして、受付嬢に渡している姿を見かけ、僕が貼ってある物を見てこようと思っていると。
「あれは、依頼書というもので、ダンジョンの素材などを欲しがっている依頼者と探索者をギルドが仲介しているのです」と、いつのまにか側にいた、マリアさんが説明してくれた。もちろん無表情だ。
「素材はギルドでの買い取りを推奨されていたようですが?」登録前に読んだ規約にそう書いてあったからだ。
「ダンジョン素材は、ギルドが買い取りを行いますが、必要な人が居ない素材は買い取り出来ません。依頼書で希望されている素材は直ぐに必要な人に渡りますので、ギルドとしても買い手を探す手間も省けます。それに手数料収入にもなります」
(こうすれば仲介手数料もそうだけど、探索者と商人との直接取引も減らせるという事かな……)
「魔物を意識して狩れば、依頼者からの報酬も入りますので、有利に探索者を続ける方法ですよ。勿論、依頼書にない素材でも高額な物はございます。そういう素材は強い魔物が多いのです……無理しない事も大切ですよ」
少し心配そうに見えた。でもやっぱり無表情だった。
僕は、初日から色々お世話になったお礼をマリアさんに告げた。
その後、貼られた依頼書を色々確認した後、ギルドを後にした。
◻ ◼ ◻
朝早くからギルドに来て登録をしたら、すぐにでもダンジョンに潜ってみようと考えていたけど、もう既に昼前になっていた。
僕はマジックポーチの中に入れてある干し肉でも食べようかと考えた。
ポーチを使うところを見られると不味いので、誰も側に居ないか辺りを確認すると……串焼きの屋台が見えた。
ウサギの絵が書いてある。可愛いくは……無かった。
僕は屋台の前まで行き、「すいませーん、串焼き二本下さい。おいくらですか?」さっそく注文してみた。
「あいよ! 二本で銅貨四枚なんだか……坊主、[レッサーボア]の肉なんだが、かまわないかい?」
(なんだか申し訳なさそうだ……なんだろ?)
「はい、レッサーボアって[山イノシシ]みたいな味です?」
僕は村で時々、食べた味を思い浮かべた。美味しいが脂身の多い肉で赤身部分は少し硬くて癖のある味だ。
(でも、串焼きにはあっさりな赤身のウサギ肉が好みかな……)
「おや、山イノシシを食った事あるのかい、レッサーボアも脂身は多いが肉は柔らかいぜ、探索者はよく戦ってる時は皮が硬くて苦戦するのにと不思議がっちゃいるがな……ダンジョン産の肉の定番さ!」
注文してから焼いてくれるようだ。辺りに美味しそうな匂いが漂う。ボア肉は結構大きいみたいだ。
(一本でも良かったかな……でも美味しそうだしな)
「この肉も美味いんだがなあ……やっぱり串焼きはウサギだって客が多くてな。ギルドに依頼までしてるんだが、これがなかなか上手くいかん」
最初は愛想の良かったおじさんが、ちょっと愚痴っぽくなってきた。
「すいません……ギルドに依頼書まで出すって事は、報酬まで出すって事ですよね? それでも狩る人が居ないって事?」
僕は不思議に思った。
(マリアさんに依頼書を上手く利用するように言われたけど違うのかな?)
(確かギルドでもウサギ肉の依頼書を結構見た……あっ! そうか! あれ人気ないから残っているのか……)
「何もお前さんが謝る事じゃねえよ……まあ探索者連中にも事情はあるからな、最近の連中は何人かで組んでのパーティー狩りだとか言うのが主流らしい。そうなると報酬も別けなきゃならねえ。だから三層あたりの小物はやりたがらない探索者は多くなっちまう。まあこの辺りの事は客からの受け売りだがね……」
そろそろ、焼き上がりそうだ……
「ああ、ウサギ専門でやってた、爺さん連中が軒並み引退してったのが痛いぜ……探索者なのにウサギ狩りかよって馬鹿にする若い奴らも多かったし、俺も若い頃は多少は軽くみてた……だが爺さん達は、街に肉を卸す狩人の仕事をただ選んでやってただけなんだな……おっ! すまねえ愚痴っちまって。ほらよ焼き上がった、熱いうちに食ってくれ」
僕は、熱い串を二本受け取り、その場を離れた。
そして、世の中がそれほど単純じゃない事を少し垣間見た気分だった。
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