第10話 佳奈の場合7
静まり返っている朝の廊下を歩く。音は聞こえないけれど、人気のなさから静かな雰囲気は感じ取れる。
蒼くんは、朝早く部室に来て、1番最初に練習をしているらしい。…だから、今日コンビニで買ったお菓子を蒼くんが通るときに渡せば、誰にも見られることはないだろう。
あくまでお礼…あくまでお礼…。そう心に言い聞かせる。
どうしても好きな人に関わることは緊張してしまう。でも、松中さんに負けたくないし…。
スマホのアプリゲームを開いたら閉じたり、ニュースを開いたり、閉じたりして、蒼くんが来るのを待つ。
ふいに目の前を人陰が通り過ぎる。
あっ!蒼くんだ…!
私は少し早歩きで、彼の元へ向かい、手を振って、メッセージカードとお菓子を渡す。
蒼くんは後ろから勢いよく来たことにびっくりしたのか、少し驚いた様子で、受け取ってくれた。
〔ありがとう、お礼なんていいのに…。〕
スマホの画面にそう打ちこんで、見せてくれる。
私は渡せたことに歓喜する気持ちをおさえながら、手を振って別れを告げた。
でも…気になったことがある。いつもなら、もう少し笑顔を見せてくれる彼が、どこか元気がなさそうな表情だった。
…気のせい?…かな?
そう思い、まだ誰もいない教室に歩いて戻った。
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