第5話 蒼の場合

「君には分からないよ」


気づいたらそうチャットに打ち込んでいた。

こんなはずじゃなかったんだ。そう…あの日が来るまでは。



1ヶ月前、俺はいつも通りに起きて、少し早めの朝食をとろうとリビングに向かった。


「蒼」


母さんの俺を呼ぶ声が聞こえる。何?と聞き返しながら振り向くと、母さんは酷く驚いた顔をしていた。


「あんた…聞こえるの?」


何のこと?と聞き返すと、母さんは険しい顔をしながら、スマホを見せてきた。


「原因不明の急性難聴か全国で混乱広がる」


 最初は何かの冗談かと思った。でも、そのニュース記事が嘘じゃないことは、母さんのうろたえ方や、父さんがいつもみたいに新聞を読んでいる姿がない事から察しがついてしまった。


〔母さん:あんた、とりあえず今日は聞こえてないふりをして学校に行きなさい〕


母さんからチャットが入る。最初はなんで?と思った。俺みたいに普通に聞こえている人がいるかもしれないのにって。でも母さんの忠告が何を意味するかは、学校に行ってみてすぐ分かった。

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