第3話 佳奈の場合3
相良先生が戻ってきた。朝教室に入ってきた時みたいには、イラついていなさそうだ。
「せっかく来てもらったところ申し訳ないのだけど、今日は休校にします。ただ、外も混乱していて危ないので、学校から家までの帰宅時間が10分以上かかる人は、出来るだけまとまって帰るように。
先生達も通学路を見回ります。」
黒板につらつらと帰宅指示・家の鍵が開いていない場合などの指示が書かれていく。
とりあえず私は家にお母さんがいるだろうから大丈夫そうだ。
休校のお知らせが終わってから、先生の連絡先・先生の入ったクラスチャットの作成などが行われた。そうしてまもなく帰宅指示が出て、帰る事になった。
井の頭恩賜公園を横目に横断歩道の手前まで歩く。いつもなら人の多い公園でさえも、今は人影を、少なくしている。
本当だったら、鳥のさえずりも、風の音、水の音も聞こえてくるはずなのに…。
信号は赤のままなので、おもむろにスマホを取り出して、ニュースを確認する。何か情報が更新されていないだろうか…。
ニュースを見ながら人影につられて横断歩道を渡ろうとする。
…とその時後ろから強く腕を引かれた。
驚いて振り返ると、蒼くんが目を丸くして立っている。何かあったのだろうか…?こんなに驚いているのを見るのは初めてかもしれない…。
〔信号、まだ赤だよ。気をつけて〕
蒼くんがスマホに文字を書いて見せてくれる。どうやら人影だと思っていたものは、飛ばされたビニール袋だったみたいだ。
ドッ
音は聞こえなくても心臓が早鐘を打っているのがわかる。
ドッドッ
蒼くんに見られた恥ずかしさと、すぐそこにある死の恐怖で胸がいっぱいになる。自分の顔を見なくても、頬や耳がみるみるうちに真っ赤になっていることは分かっていた。
蒼くんに軽くおじぎをして、下を向いて歩く。自分の顔を隠したい。その一心だった。
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