急展開

 藍白が突然帰ってしまった後、俺が嬉しいやら恥ずかしいやらの気持ちで一人ベッドの上で悶々としていると、メールが送られてきた。


『突然帰っちゃってごめんね』


『その……………恥ずかしくて』


 なんとなくそうだろうなとは思っていたので、俺はすぐに返信する。


『全然大丈夫だよ。今日は楽しかった。また学校で』


『うん!』


 メールの反応が直接話してるときと同じとか可愛すぎだろ。


「…………………」


 スマホを枕元に置き、目を閉じる。


 今日のことで、改めて藍白と付き合っていることを実感した。


 俺にとって初めての彼女で、だからこそ大切にしたいし、藍白のことをもっと知りたいと思う

……………だけど、本当は俺が知ってるのは藍白のほんの一部分だとも思う。


 俺は、藍白が記憶をなくした理由を知らないし、藍白が感じてる苦しみも知らない。


 多分、藍白本人が俺にそういうことを感じさせないようにしているのだろう。


 以前は、他人の俺が個人の込み入った事情に首をつっこむべきではないと思っていた。


 だけど今は、藍白が苦しんでいるなら少しでも助けになりたいと思うし、もっと俺を頼ってほしいと思う。


 いつの日か、藍白と何の気兼ねもなく話せる時が来るといいな。


 そんなことを思っていると、いつの間にか眠りについていた。


 翌日。学校に行くと藍白はまだ来ていなかった。


 いつもは俺より先に来ているのに………寝坊でもしたのか?


 少し気になるが、俺は通学用バッグの中からラノベを取り出して読む。


 だが結局、一時間目の授業が始まっても藍白は学校に来なかった。


 家に帰ってメールをしてみたが、返信どころか既読すらつかない。


 本当にどうしたのだろうか………。


 気分はもやもやしたままだが、明日には藍白も学校に来るかもしれないと思い、無理矢理不安な気持ちを押さえ込んだ。


 自分でも、どうしてこんなに動揺しているのか分からなかった。


 ……………いや、本当は分かっている。


 こんなにも胸がざわつくのは、嫌な予感がしているからだ。


 具体的なことは何も分からない。


 だけどどうしても、そんな気がしてならない。


「……………はあ」


 これ以上あれこれと考えても無駄だと思い、今日は早々に寝ることにした。


 明日になれば、何も心配することはなかったと思えると信じて。



 翌日。やはりと言うべきか、藍白はまた学校を休んだ。相変わらずメールの既読もつかない。


 たとえ体調が悪かったとしてもスマホぐらい触るだろう。それとも、スマホを手にとって見るほどの力もないほど、疲弊しきっていたりするのだろうか。


 見舞いに行きたいが、藍白の家がどこにあるのか分からない。


「康男~」


 俺が自分の席で頭を唸らせていると、茂が声をかけてきた。


「どうした、そんな暗い顔して……………あ、分かった。藍白さんだろ。この二日間来てないもんな~」


「…………………」


「…………あれ、もしかしてマジ?」


 こいつ、意外なところで鋭いな。


「茂…………………じゃなくて小田尾」


「シリアスな場面じゃなかったのかよ………」


 危ない危ない。第四話で言ったことを忘れるところだった。もう誰も覚えていないと思うけど。


「で、何?」


「お前……藍白の家知らないよな?」


「知ってるよ」


 分かってる。こんな俺としかつるんでなくて他に友達がいないような奴に聞いても良い返事は返ってこないって。ましてやクラスの女子の家なんて…………………。


「ん?」


 今、俺の問いかけに即答したような……。


「だから、藍白さんの家、知ってるけど」


「なにいっ!?」


 あまりの衝撃に大声を上げて勢いよく立ち上がる。


「ほっ、本当か?」


「だから言ってるじゃん………わりと有名だぞ」


「ゆ、有名? 藍白の家がか?」


 そういえば、藍白ってものすごくお金持ちだと聞いたことがある気がする。


 ………もしかして藍白の家ってスネ◯もビックリなほど大きかったりするのか………?


「まあ、あんまりいい意味じゃないんだけどね」


「どういうことだ?」


 意味深な発言の意味を聞くと、小田尾は右手を口元に近づけて小声で話し始めた。


「藍白さんがお金持ちのは知ってるでしょ?」


「? ああ」


 少し言い回しが気になるがとりあえず頷く。


「それがさ、なんか前はすごい豪邸に住んでたらしいんだけど、今はかなり古そうなアパートに住んでるんだって………確か、『天竺荘』って名前だった気がする」


「…………そう、なのか」


 人の家の噂話が広がっていることに少し思うところはあるが、ひとまず情報を手に入れることができた。


「え、まさか藍白さんの家に行くの?」


 そこで初めて、俺は小田尾に藍白との関係を言っていなかったのを思い出した。


「実は…………」


 俺と藍白は付き合ってるんだ、と言おうとしたが、すぐに口を閉じる。


 小田尾に伝えたところでこいつには友達がいないから噂は広まらない。でもだからといって、勝手に言うのもいかがなものかと思い、とりあえず適当に誤魔化すことにする。


「先生に届け物頼まれたんだよ」


 信じてもらえるか怪しかったが、咄嗟に思いついたのがこれなので仕方がない。


「へえ、ていうか男子に頼むってどうなんだよ

…………」


「席が隣だし俺が一番藍白と話してるって思ってるんじゃね?」


「まあ確かに」


 小田尾が意外とすんなり信じてくれたので安堵する。


「襲ったりすんなよ?」


「するかっ!」


「はは、お前にそんな度胸ないもんな」


「うるせー」


 小田尾に感謝しながらも、顔が赤くなっていないか不安になる。


「ま、頑張れよー」


「何がだよ」


「別に~」


 見透かしたように笑う小田尾がちょっとウザいが、少しだけ気分が軽くなっているのに気づいたので、


「ありがとな」


とだけ言っておく。



後書き

第15話を読んでくださりありがとうございます!

今回は藍白が全く登場しませんでしたか、話の流れでも分かるとおり、次回はしっかり登場させます。少し重めの話になるとは思いますが、よろしくお願いします!

追記

タイトル変えました。一応書いといた方がいいかなと思ったので。




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る