おうちデート

 というわけで週末。


 藍白あいじろが来るまではまだ時間があるが、どうも落ち着かない。


 男友達すらこの部屋に入れたことはほとんどないというのに、今から女子が、しかも彼女が…。


 俺の部屋臭くないよな? 何も変なものはないよな? 幸いなことに、俺は二次元にしか興味がないので、エロ本などというものは持っていない。もちろん、18禁同人誌なんかもない………その代わり、大量のオタクグッズがあるけど。


 隠すかどうかは迷った。藍白は俺がオタクだと知らないから、知ってしまったら嫌われるかもしれないと、そう思った。


 だけど恋人になった以上、藍白に隠し事はしたくない。ありのままの俺でも、好きになってほしいから。


 だが、やっぱり緊張する。この前一緒に出かけた時は、まだだった。


 けど今は違う。たったそれだけのことだけど、俺にとっては、すごく大きなことだ。


 部屋のなかを意味もなくぐるぐる回っていると、いつの間にか約束の時間になり、インターホンの音が鳴る。


 俺は足早に二階から玄関まで降りて、大きく深呼吸をし、ゆっくりと扉を開ける。



「あ、えっと、どうぞ」

 

 藍白はゆったりとした白のワンピースを着ており、とても似合っていた。


「お、お邪魔します」


 あまり見すぎるのもあれなので、俺はすぐに後ろを振り返り、自分の部屋へ案内する。


「俺の部屋、ここだから」


 そう言って、俺は自分のオタク部屋への扉を

開けた。


 恐る恐る藍白の横顔を見る。その瞳は大きく開き、口もポカンと、開いている。


 そりゃあ、驚くよな。でも、驚いてるだけでドン引きしているとかではなさそうだ。


「言ってなかったかもだけど、俺、まあいわゆるオタクってやつなんだ」


「そ、そうなんだ…………」


まずい、やっぱりちょっと引いてる?


「やっぱり、彼氏がオタクって…………嫌、だよな?」


「う、ううん。そんなことないよ……ただ、ちょっとびっくりしただけだから」


「そ、そうか…………」


ヤバい、なんか変な空気が流れている気がする。


「ゲームとか本がいっぱいあるね」


主にギャルゲーとラノベだけどね!


やっぱり隠しておけばよかったという後悔が頭のなかを巡る。


 藍白は部屋の中を一通り見終わったあと、ゲームのコントローラーをじっと見つめる。


「あの、安尾君」


「ん? どうした?」


「その、ゲームとか、やってもいい?」


「ああ、全然いいけど」


そう答えると、見るからに嬉しそうにする。そんなにゲームがしたいのか。


「ん~、どれがいいかなあ」


いくら俺がオタクだからといって、ギャルゲーしか持っていないわけではない。誰もが知っているような有名ゲームだって、少しはある。桃姫を救うために亀をぶっ倒す旅に出る横スクロールアクションや、相手の体を殴りまくって最終的に宇宙の彼方…………いや、画面外まで吹っ飛ばす対戦型格闘ゲームなど、それなりにはある。


 とりあえず、藍白が気になったものをするのがいいと思い、ギャルゲー以外を藍白に見せる。


「んー、じゃあ、これがいい」


藍白が選んだのは、先程も言った、相手をメテオで地の底に…………ではなく画面外に吹っ飛ばすゲームを選んだ。


 これ、初心者には結構難しい気が…………ま、まあいいか。まずはやってみよう。


 いつもはゲーム機本体の画面を見てやるのだが、今日はテレビに接続する。


「この中から好きなキャラを選んで戦うゲームなんだ。とりあえず気になったキャラを選ぶのがいいと思うよ」


藍白が少し悩んだ末に選んだキャラは、まさかのあいつだった。


 そう、そいつは火力こそこのゲームの中でもトップクラスだが、足が遅く体が大きいので、初心者が使うと相手に弄ばされてしまうという悲しいキャラ…………ガノンド…………ではなくおじさんだ。


 まさかこんな可愛いjkがこんなむさ苦しいおじさんを選ぶとは……………これこそがギャップ萌えというやつか。


「ほ、本当にこのキャラでいいのか?」


「え、う、うん、なんか強そうだったから」


た、確かに。なんという説得力だ。


「じゃあまずは、コンピュータを相手にやってみるか」


そう提案すると、藍白はきょとんとする。


「安尾君は、やらないの?」


「あ、俺? いや、俺はこのゲーム結構やってるから、まずは藍白が慣れる方がいいと思って」


と、藍白は少し落ち込んだ様子になる。


「安尾君と…………やりたい」


ぐはっ! や、やっぱり駄目だ。藍白の可愛さの耐性をつけるのは無理だ。そんなこと言われたら俺も一緒にしたくなるじゃん。


 俺は少し考えて、ある提案をした。


「そうだ、じゃあとりあえず藍白がこのゲームに慣れたら、その後二人でチーム戦しよう!」


「チーム戦?」


「そう、チーム戦。二人で協力して相手を倒すやつ。きっと楽しいと思うよ。」


「……………うん! じゃあ、まずは一人で練習するね!」


よかった。チーム戦に魅力を感じてくれたようだ。


 その後、藍白は一時間ほどCP相手に悪戦苦闘していた。


 横で色々アドバイスしながら見ていたが、思ったより藍白は飲み込みが早かった。


 CPのレベルをどんどん上げていき、とうとうレベル7の相手に勝てるようになった。


「じゃあそろそろ、チーム戦やるか」


「うん!」


藍白は結構ゲームにのめり込んでいって、傍目から見ても楽しそうだった。


 二人でチーム戦をしていたら、思ったより俺も楽しくなって、気づけば二時間ほど経っていた。


 崖外に出た相手にまじんけ…………ではなくおじさんパンチを当てたときはあまりのセンスの良さにビックリした。


「腹減ったな」


時刻は昼の一時に迫っており、昼食の時間としては少し遅いくらいだった。


「簡単なものなら作れるから、なんか食べたいものがあったら言ってみて」


というか、さっきから妙に藍白がそわそわし始めている。


「藍白?」


「へっ?」


「どうしたんだ、顔真っ赤だけど」


「あっ、えっと、その…………」


そわそわと髪をいじったり、手をもじもじさせている。


「いや、その、お昼ご飯のことなんだけど……その……………」


「?」 


藍白は何か決心がついたように、突然持ってきていた小さめのバッグの中から、弁当箱を取り出した。


「これ……………作ってきたから」


「え、お、俺に?」


こくりと頷く。


「マジか、すげえ嬉しい! 藍白の手作り弁当が食えるなんて!」


「ほ、本当に?」


「ああ、すごく嬉しいよ。ありがとう!」


 自分でもちょっと大袈裟すぎるかもと思ったが、実際めちゃくちゃ嬉しいので仕方ない。


「それじゃあ一緒に食べよ!」


藍白も満面の笑みを浮かべて、俺に負けず劣らず嬉しそうだ。



後書き

第12話を読んでくださりありがとうございます!おうちデートは次回まで続きます。もっと読んでいる方を藍白の可愛さで悶えさせられるように頑張るのでよろしくお願いします!









 


 


 


 

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