十話 告白

 その後も適当にぶらぶらしていたら、すっかり外は暗くなっていた。


「今日はありがとな、俺に付き合ってくれて」

「いや、全然…………楽しかった」


「俺もすごい楽しかったよ。本当にありがとう」


 電車を降り、暗い寒空の下、しばらく沈黙が続く。


 言うんだ、一歩踏み出せ。


 あとほんの少しの勇気を振り絞ろうと、自分に言い聞かせる。


「藍白」


 絞り出した声は、少しだけ上擦っていた。


 隣を歩く藍白が、こちらを見上げるのが横目に見える。


 俺は立ち止まる。


 藍白も、少し前で立ち止まる。


 俺は、しっかりと藍白の目を見つめて、心に届くようにと願いながら、何度も思い描いた言葉を、紡ぐ。


「俺…………藍白のことが…………好きだ」


 声、震えていないだろうか。緊張しすぎて自分でもよく分からない。


 だけど、まだ言わないといけないことが、言いたいことが、ある。


「俺と、付き合ってください」


 どれほどの時間が、二人の間で流れただろう。


 ほんの数秒だったかもしれない。


 だけど俺には、ものすごく長く感じた。


 藍白の目は一瞬だけ揺らぎ、次の瞬間には、その顔は綻んでいた。


 そして一言、しっかりと噛んで含めるように、こう言った。


「はい、こちらこそ」


 その時の藍白の顔を、声を、仕草を、俺は忘れることはないだろう。




後書き

第十話を読んでくださってありがとうございます! かなり急でしたが、告白させるなら今しかない! と思い、康男には頑張って勇気を振り絞って貰いました。


 

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