九話 デートわからん!

 なぜ俺が藍白あいじろをデートに誘おうかと思ったのかというと、確かめたかったからだ。保健室でのあれが告白なのかを。


 直接聞くのは少し憚られたし、まあ単純に、自分から積極的にアプローチをしてみようと思ったのだ。


「今週末、一緒にどこか出かけない?」


「………………………………え?」


 しまった、やっぱり急すぎたか?


 そりゃそうだ。これまで自分から話しかけることすら恥ずかしくてあまりしていなかったのだから。


 だが、もう言ってしまったからには後戻りできない。


 これで断られることになったとしても、一歩踏み出さないと何も始まらないのだから。


「………………………………うん、行きたい」

 そう、例え断られたとしても…………


「ん?」


 今、藍白が頷いたように見えたんだが………気のせいだよな。


「……………………一緒に、どこか行こう?」


「………………まじ?」


 おれの問いかけに藍白はこくりと頷く。


「ホントに?」


 またこくりと頷く。


 やったああああああ!


 ヤバイ。ギャルゲーで全ヒロイン攻略できたときより嬉しい!


 と、いうわけで現在週末。時刻は午前十時。


 今だかつて、こんなにも心が踊っている週末を迎えたことがあるだろうか、いやない。違う意味で心が興奮したなら漫画で見たけど(変態ならこの漫画が何か分かるよね?)


 はっ、いかんいかん。今からはオタクモードは消さなければ。


 といっても、一時間も早く来てしまったんだが。まあ待たせるよりは良いよね。


 だが、適当に駅の中で暇を潰そうと店を探し回っていた時、俺の視界に銀髪の髪が姿を現した。


 遠目で後ろ姿だが、間違いなくあれは藍白だ。

まさか俺より早く来ているとは。


「藍白」


 藍白は、土産店でご当地キャラのぬいぐるみをじっと見つめていた。


「へ? あ、安尾君」


 驚いたように振り返り、こちらを見る。


 私服………………表現しようとしたけど、俺はそういうのに疎いのでご想像にお任せします。とにかく可愛いということだけしか分かりません!


「まだ集合時間の一時間前なのに早いな」


「えっ、あ、その、なんというか……………落ち着かなくて」


 うん、落ち着いてないのはすごく伝わってくる。


 後で聞いたことだが、藍白は俺が来る一時間前、つまり、待ち合わせの二時間前にはもう到着していたらしい。可愛いかよ。


「んー、まだ昼飯には早いよな」


 俺の休日には昼飯なんていう概念はないわけだが、一般的に考えたら多分早いだろう。


 "ぐうううううう"


 と、俺がこれからどうしようかと考えていたところ、隣で藍白が顔を真っ赤にしてお腹をおさえている。


 藍白、腹減ってるのか?


「藍白………………」


 ダイレクトに聞こうとしたところで俺は引き下がる。こういうことを女性に聞いたら、デリカシーのない男になるのでは?


 はっ、きっとそうだ。危ない危ない。


「でも腹減ったからやっぱりどこか行くか」


「………………………………うん」


 素直だな。


 昼飯は正直、どういう店に行けばいいのかさっぱり分からない。あまり高級なところは駄目だし、かといって◯ックとかもないよなぁ。


 悩みすぎるのもあれなので、とりあえずファミレスにした。初デートでファミレスでいいのか? と思うが、これしか思いつかない。


 食後は、藍白自らの提案により、映画に行くことにした。しかもなぜかホラーもの。


 俺、ホラー苦手なんだけど。


 とは口が裂けても言えるはずもなく、内心めちゃめちゃ怯えながら席に着いた。


 しかし、その心配は全くの杞憂で、全然恐くなかった。いや、一人で見たら恐かっただろうけど。


 何しろ藍白が想像以上に恐がっていたからだ。途中で「ヒッ」とか「キャッ」とか言って、無意識なのか分からないが、俺の腕にしがみついてたし。


 じゃあ何でホラー映画観ようって言ったんだよ、というツッコミはおいといて、とにかく可愛すぎて全然映画に集中できなかったよ。



「や、安尾君」


「ん? どうした?」


 映画館を出て、まだ若干半泣き気味の藍白が、通りかかったゲーセンを見ながら俺を呼んだ。


 その目はでっかい猫のぬいぐるみを見ている。


「あの、その…………………………」


 そういえば、さっきもご当地キャラのぬいぐるみ見てたよな。


 藍白、ぬいぐるみ好きなのか? か、可愛い!


「あれ、欲しいのか?」


 俺が指差しながらそう問うと、藍白は頷く。


 最初は藍白一人で挑戦していたが、全く取れる気配がない。


 だんだん藍白の表情が沈んでいく。


「俺がやってみてもいいか?」


「え?」


「お金は俺が払うから」


 藍白は頷き、俺と場所を交代する。


 クレーンゲームにはかなり自信がある。何しろこれまで数多くのフィギュアを取ってきたのだから。まあ今回はぬいぐるみだけど。


 お金を入れて、慎重にアームを動かす。いい感じの場所まで動かし、下ろす。アームはがっしりとぬいぐるみを掴み、そのまま上へ持ち上げる。一瞬落ちそうになったが、なんとかゲットすることができた。


 まさか一発でゲットできるとは。流石に思っていなかった。


 景品口から出てきたかなり大きめなぬいぐるみを取り、藍白に渡す。


「え? い、いいの?」


 藍白は驚いた風に言う。


「藍白欲しがってたじゃん」


「そ、そうだけど…………でも、安尾君が取ったものだし」


「いいからいいから、気にすんな」


「…………………………ありがとう」


 藍白はにっこりと笑って嬉しそうに受け取る。

 ちなみにこの後も、藍白は何の恥ずかしげもなく、そのぬいぐるみを抱きかかえていた。





後書き

第九話を読んでくださってありがとうございます! 変なところで終わりましたが、次回もデート回です。今回書いてみて思ったのですが、自分、経験がないものですからデートをどのように書けばいいのか全く分かりませんでした。いろいろとツッコミどころがあるかもしれませんが暖かい目で見てくださると嬉しいです。

次回もお楽しみに!

 

 


 


 


 

 

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