四話 一番くじ引くのやめようかな
週末。俺は貴重な趣味の時間を削り、小田尾と県内で一番栄えている場所に来ていた。
といっても東京とかと比べたら全然大したことないんだけど。
まあ、来たからには楽しもう。
とりあえず俺たちは最初に最も無難なアニメショップに入った。
店内に入った瞬間、俺はあるものを見て胸が苦しくなった。
そう、一番くじだ。
一番くじ……それはオタクの懐を破壊する凶器だ。なんと言ったって一回600円~700円ほどするのだ。特に高校生にとっては痛すぎる出費だ。
まあ、それは毎回最低でも10回は引く俺が悪いんだけど。
一週間前、俺はこのくじを引いた、15回も…………。
俺の狙いはD賞の書き下ろしビジュアライズボードだった…………しかし、俺の嫁達は俺のところへは来てくれなかった。いや、来てくれたんだ、来てくれたんだよ、F賞のラバーストラップでだが…………。
15回中10回F賞ってどういうこと?!
俺の7000円はあんなちっこいやつに変わっちゃったの?! しかも被りめっちゃあったし………。
あー、思い出すだけで辛い。
「あ、○○娘の一番くじじゃん」
と、俺がトラウマに苛まれていると、小田尾が嬉しそうにそう言う。
やめてくれ、その話題は今の俺にとって辛すぎる。
「どうした? そんな苦い顔して」
「いや、なんでも」
「ははーん、さては爆死したな」
「爆死って言うな!」
「やっぱり、いやーお前くじ運ないもんな」
「うっせえ」
「まあまあそんな怒んなって。なんなら誕生日にこれ買ってやろうか」
そう提案され、俺は少し悩む。
奢ってくれとは言ったが、実際は特に欲しいものがなかったからだ。
いや、欲しいものはある。しかし、特装限定版の円盤なんか頼めるわけないじゃん? 流石に。
ちらりと一番くじの残っている景品を見る。
D賞が、ある…………だと?
「ちなみに何回引かせてくれるんだ?」
「まあ、三回くらい?」
「三回か…………」
「なんかすごい不満そうなんだけど」
2000円も出してくれるのはありがたいが、三回で引けるだろうか? いやでも、他に欲しいものがないのだから無料で引けると思えば…………。
「めっちゃ悩むな」
「…………よし、ではお願いしよう」
結果、全部F賞でした。
「まあ、ドンマイだな」
「お前、これが友達への誕生日プレゼントでいいと思うか?」
「うわ、自分で決めたくせにすごい言いがかり」
ちなみにこの後行った中古ショップで俺が欲しかったD賞が3000円で売ってありました。
ぶらぶらと特に目的もなくいろんな店を巡ったり、昼飯を食ったりしていたら、もう夕方になっていた。
そろそろ帰るかということになり、電車乗り場に向かっていると、途中にメイドカフェがあった。
男なら(オタクなら)見ちゃうよね、うん。
と、ガラス越しに店内を少し見たとき、俺は信じられないものを見た。
藍白が、メイド服を着て接客していた。
……………………はっ?! え! ちょっと待って藍白?!
俺はガラスに張り付かんばかりにまじまじと見るが、何度目をこすっても見間違いではない。
白と黒で全体的にひらひらしたメイド服を来ており、長い銀髪に猫耳カチューシャ、さらには尻尾までつけている。
「おーい、康男、何やって……って藍白さん?!」
そうか、お前にもあれが藍白に見えるか。どうやら本当に俺の見間違えではないらしい。
「え?! 何でメイドカフェにいんの?!」
「……そんなの俺が知りたいぐらいだ」
と、二人して藍白をガン見していると、ふと、藍白が顔を上げ、俺たちと目が合う。
目が合った瞬間、藍白は二回ほど瞬きをして、突然はっとなったように目を見開く。顔を真っ赤にして、手に持っていたトレイを落とし、両手で顔を覆った。
そんな反応の藍白に対し、俺はというと、完全に見惚れていた。
ただでさえ猫っぽいのに猫耳に尻尾と
か…………しかもスカートめっちゃ短いし、そのせいでスタイルの良さが際立っている。
藍白はトレイを拾うと、焦っている風に客の注文を聞き、その場を去っていった。
俺たちはしばらくその場から動けなかった。
何でメイドカフェでバイトしてんだ? いや別にどこでバイトするかなんて人の勝手だけどさ。
でも、いつもの藍白の様子から考えればメイドカフェでバイトしてるなんて想像もつかない。
というかうちの学校、バイト禁止だったような…………特別な理由でもない限り。
その時、俺のなかでバイトをする"特別な理由"と"記憶喪失"という言葉がなぜか引っ掛かった。何の根拠もないけど。
思ってしまったら色々と考えが止まらなくなり、一日中悩んでいた。
休みが明け、いつもならこれから始まる五日間に気持ちが萎えているところだが、今日は違った。
聞いてみてもいいのだろうか? でも、聞いたところでどうにかなるわけじゃないよな。
いや、何を悩んでるんだ俺は。藍白の意外な一面を見ただけだ、いつも通り話せばいい。その方が藍白も楽だろうし。
と、思ってはいたがいざ学校に来て、藍白の姿を見るとどうにも話しかけづらい。
藍白もいつも以上になんか緊張してるみたいだし。
そんな調子で授業が終わり、放課後になったら藍白が声をかけてきた。
「あ、あの、安尾君」
「え、あ、どうした、藍白」
「その、少し話したいことがあって…………」
そう言われるとは思っていなかったので少し驚く。
「これから、時間ある?」
「ああ、あるけど」
「…………ここで話すのは、その、ちょっと、嫌だから、どこか寄り道、しない?」
放課後デートキターー!
と、浮かれている場合ではない。多分、重要な話だろうから真面目にしなくては。
俺たちはこの後、近場の喫茶店に行った(もちろん猫耳に尻尾をつけた店員などいない)。
後書き
第四話を読んでくださってありがとうございます! タイトルは考えるの面倒だったのであれにしました(笑)
次回は少し重めな展開になると思います。藍白の可愛さがなかったとしても読むのをやめないでいただけると嬉しいです(土下座)。明日も必ず投稿しますので!
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