二話 テスト勉強(追試です)

 藍白あいじろの可愛さのあまり死にかけた俺だが、なんとか一命をとりとめた。


「駄目、かな?」


 そんな悲しそうに言わないでくれ。これ以上俺の寿命を縮めないで!


「い、いや、それくらいなら」


「……いいの?」


「……ああ」


 俺が藍白の頼みを承諾すると、喜びに満ちた顔になる。


 約束しちゃったよ! 好きな子と二人で勉強会なんてリアルにないと思ってたよ!


「あ、ありがとう」


 お礼を言うときは人の目を見て言おうね! もじもじしながら言ったら余計に可愛いから!


 心臓の音を気にしないように気を取り直す。


「えっと、追試って確か一週間後だよな」 


「うん、多分」


「………」


 『なら今日からすれば十分余裕があるな』と言おうとしたところで、俺は嫌な考えにたどり着いた。


 聞くのがものすごく怖いが、大事なことなので覚悟を決める。


「ちなみになんだが、今返された数学以外は大丈夫そうか?」


 『大丈夫』とはつまり、『赤点は数学だけだよね?』ということだ。


「…………」


「…………」


 大丈夫じゃないようだ。


「その、えっと………数学以外も教えて欲しいですっ」


「赤点取ること前提なんだ?!」


 これは、前途多難なことになりそうだ。



 結論から言おう。


 赤点でした、全教科…………。


 なああああああ! 全教科赤点取る人なんて初めて見たよ! 一教科だけでも中々なことなのに。 これ大丈夫か? まじで?!


 うちの学校は一日でテストがすべて返され、その日から一週間後に追試が行われる。つまり、数学の後も、テスト返しラッシュ(藍白にとっては赤点ラッシュともいう)であり、藍白の顔は解答用紙を受けとる度に顔色が悪くなっていた。


 追試の合格点は五十点以上。つまり、最低でも二十点以上は上げないといけない。


 数学以外は何点だったのかって?


 はは、そんなの怖くて聞けてないよ。とりあえず赤点だったらしい。


 やれるか? 一週間で? 今日からやっても一日に一教科しか時間を割くことができないだろう。


 でも、やるしかない。藍白のためだ。


 なんてかっこいいことを思っているが、実は毎日藍白と勉強会をしたいからということは言うまでもない。


「藍白」


 今日最後の授業が終わり、机に伏している藍白に声をかける。


「どうする? 今日からするか?」


「………うん、お願いします………」


 と、いうことで現在放課後。


 ………放課後の教室って、こんなに静かなんだね。てっきりもっと人が残ると思ってたんだけど。毎日誰よりも早く教室を出ていたから知らなかった。


 だって一刻も早く我が愛しの嫁(一夫多妻制です)に会いたいじゃん?


 そんな嫁達と戯れる時間を割いてまで、俺は今、女子と二人きりで教室に残っている。


「えっと~、まずどの教科にする?」


 藍白はなんか、緊張してるみたいだった。


 今から勉強するのに机の上には何もないし…。


「……すす、数学を、お願いします」


「なぜ敬語?」


「いや、なんか、つい………」


「なんか緊張してない?」


「そんなことは、ない……です」


「また敬語」


「あ、ごめんな………ごめん」


 敬語改めてくれた。


「まあいいや、じゃあ問題用紙出そうか」


 俺がそう促すと、はっとなって鞄の中から数学の問題用紙を取り出した。


 いや、締まってたのかよ。


 今更ながら、藍白以外と天然だな。見た目はすごいしっかりしてそうなのに。


「それじゃあ、簡単な問題からするか」


「うん」


 藍白の問題用紙には間違った問題に印がつけてあり、それを一通り見て、一番簡単なものから教える。


「線ABとACの比が5:3だから、ここの比は?」


「えっと…………5:8!」


「正解!」


「できた!」


 そう言ってこちらに向かって満面の笑みを浮かべる。


 ま、眩しい! そんな顔で俺を見ないでくれ! 浄化されるぅぅぅ。


 あ、ちなみに今解いた問題は基礎中の基礎でした。


 ホント、こんな簡単な問題が解けただけでこんなに嬉しそうにするJKがこの世にいるだろうか。


 と、俺が藍白の可愛さに浄化されて体が透けてきたと思ったら、藍白はさっきの笑顔はどこにいったのやら、急に頬を赤く染め出した。



「どうした?」


「い、いや、なんでも…………」


「そうか、それじゃあ次いくか」


 気になるが深く追求してうざいと思われるのも嫌なので次に進む。


 この後も順調に進み、気付くと時刻は6時を回っていた。


「今日はもう終わるか」


 とりあえずすべての問題を説明し終わったので、そう提案する。


「……………うん」


 なんか悲しそうなんだけど。


「明日も頑張ろうな」


「……うん!」


 …………『うん』としか言ってないのにこんなに可愛いのはおかしいと思うんだ。


 正直、俺ももう少し残っていたい気もするが、あまり外が暗くなってから帰るのも危ないしな。


 というかこれ、もしかして家まで送った方が良いのか? 外も少し暗いしな。でも、そもそも藍白、家どこなんだ? 電車とかで来てるなら送れないし。


 そんなことを悩んでいると、学校の正門まで来てしまった。


「藍白の家ってここから近いのか?」


「え、うん、少し歩けば着くよ」


 うーん、それなら一応、言ってみるか。


「家まで送ろうか?」


 そう俺が言ったとき、藍白の顔が少し困っているように見えた。


 しまった、なんか駄目なこと言ったかな?


「ううん、大丈夫、ありがとう」


「…………そうか」


 しかし、そう見えたのは一瞬で、すぐに笑顔に変わっていた。


「また明日ね」


「…………ああ、また明日」


 その日は少し引っ掛かるものを感じながら、帰路についた。



後書き

2話を読んでくださってありがとうございます!

本編の最後に少しだけ不穏な空気を見せましたが、回収するのは少しだけ先になりそうです。

おまけで2.5話を書きました。内容は、2話の後に藍白が家に帰って、悶えてます。はい、意味が分からないと思うので是非そちらもお読みください! お願いします!

次回もお楽しみに!

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