メインヒロインが記憶をなくしちゃいました
@anv
一話 テスト返し
「それじゃあ、テスト返すぞー」
先生の声に反応して、クラスがざわつき始める。
「全然勉強してないから今回めっちゃ低いよー」
「私も今回ヤバイわー」
「マジで赤点だけはやめてくれ!」
そんな陽キャの馬鹿アピールを聞きながら、俺は右からの視線を気にしていた。
さっきからめっちゃチラチラ見てくるんだが………。
顔が赤くなっていないか不安になり、隠すために頬杖をついて運動場を眺める。
あー、窓際の席でよかった。左に誰かいるのにそっち向いてたら気味悪がられるところだったわ。
キモオタがこっち見てるんだけど、キモッ! みたいな。
いや、一文に『キモ』って二回も入れるなよ!
いかんいかん、体が熱くなってるせいで自分一人で会話している。
落ち着け、落ち着くんだ。
三次元の女子の視線なんて俺の敵ではないっ!
賢者タイムに突入して心を落ち着かせ、何事もなかったように顔を前に向ける。
その瞬間、視界の右端で俺と全く同じだが、その速度が段違いな動きをとらえた。
また見てたよ! 何か用があるなら話しかけろよ!
しかもうつむいて顔真っ赤にしてるし。
あれだな、なんか髪の毛がギンギラギンのせいでより分かりやすいな。
そう、俺の隣にいる銀髪ロングの女子、
うーん、最近読んだラノベのヒロインとちょっと被ってる気がする。でも、ラノベの方はガチのロシア人だし、髪もショートだ、被ってない被ってない。
とまあ、そんなことはどうでもいいわけで、いつまで顔真っ赤にしてるんだよ……手もじもじしてるし。
ちょっと話しかけてみるか。
「藍白、どうかしたか」
「えっ! い、いや、なんでも、ない……よ」
「………そうか」
って、んなわけあるかい! どう見たって何かあるだろ。
気まずい空気が二人の間を流れる。
ほんの数か月前なら『なっ、なんでもないわよ! あんたのことなんか見てないし!』というようなテンプレ通りの言葉を言っていただろうに。
暗い話になるが、藍白は記憶を一部分だけなくしてしまっている。一部分というのは、ここ一年間であり、高校に入学する前からだから、今のクラスメートのことも忘れていた。原因は知らされていないが、何かショックなことがあったのだと思っている。
だが、藍白は記憶をなくしただけでなく、その性格までも変わってしまっていた。
以前はクラスでもかなり目立つ方で、友達もたくさんいた。世間的に見ても藍白は整った顔立ちをしているし、何よりその日本人離れした容姿はとにかく人目を引くだろう。当然、男子にも持てており、よく藍白の話で盛り上がっているのを見たことがある。
だが今は、藍白には友達と言える人が多分いない。他人の俺が言うことではないが、藍白は記憶をなくしてからは、明らかに塞ぎ混んでしまったし、そのせいで周りも話しかけづらいと思ったのだと思う。
当然といえばそうなのだろう。俺だって一年間の記憶がなくなったらその間に放送された気になっていたアニメを全視聴、追っていた漫画やラノベだったら読破する。
え? そんな軽い話じゃないだろって?
いやいや、そんなことはない。アニメやラノベがなくなったら良くて鬱病、悪くて自殺するレベルだ、俺にとって。
「
そんなことを考えていると先生から名前を呼ばれたので席を立ち、テストの解答用紙を受けとる。
あ、ちなみに俺の名前は
……………断じてふざけているわけではない。俺の名前はやすおやすおである。まあ、そう思われても仕方がない。何せ、俺の両親がふざけているからな。これじゃあ、○比○びたもビックリだろう。
なぜこんな名前にしたのか理由が知りたいが、怖いので聞けていない。一体どんな発言が母親から飛び出してくるか分かったものじゃないし。
席につき、点数を見る。いつも通りの結果であることに満足して、間違った問題と模範解答を見比べる。
確かに名前はアレだが、勉強という面では○比○びたと比べられては困る。
自分で言うのもなんだが、俺はテストで九十点を下回ったことはない。
いっつも青タヌキに頼っている泣き虫とは訳が違うのだ。
赤ペンで要点を書き込んでいると、隣の藍白が席を立った。
見ただけで分かる、ものすごく重そうな足取り。
今回も駄目だったのか。藍白は言っちゃなんだがかなり成績は悪い。別にこれは記憶をなくしたからと言うわけではない。高校入学当初から藍白の成績は悪かった。そこそこの進学校なのに。
震える手で解答用紙を受けとり、席に戻ってくる。まだ点数は見ていないようだ。
席に座り、ゆっくりと二つ折りにされた紙を広げる。
いや、目閉じてたら見えないだろ。
紙は広げられたが、眉間に皺がよるほどぎゅっと目を瞑っている。
そんなに見たくないのかよ。ちなみに俺にはもう点数が見えている。
藍白は深呼吸をしてゆっくりとその目蓋を開ける。
瞬間、藍白は安堵したように頬を緩める。
あれ? 思ってた反応と違う。いつものように膝から崩れ落ちる様子を期待していたのに。
藍白は胸を撫で下ろして、椅子に背中を預ける。
「藍白」
「えっ? な、なに?」
「ああー、すまん、お前の点数見てしまったんだが」
「うん」
藍白は俺が声をかけてきた理由が本当に分からない様子できょとんとしている。
かわいい………じゃなくて、その点数見られて恥ずかしくないのかよ。
「えっと、三十点、だよな。藍白の点数」
そう、この際藍白が馬鹿なのは置いといて、その点数についてなんだが。
「そう、だけど」
「ウチの学校、赤点が何点以下か知ってるか?」
「三十点?」
だからきょとんとするな! なんかこっちが恥ずかしくなる!
「そう、三十点、
「うん、知ってるけど……」
藍白お前……それはさすがにヤバイぞ。
「藍白、ここで問題だ」
「?」
「三十点以下とは、三十点も入るか、入らないか」
人差し指を頬に当ててほんの少しの間考える。
だから、そういうことを自然にするな! 破壊力がすごいんだよ! さっきから心臓が信じられない速さで鳴ってるから!
「入らない?」
うわ、言っちゃったよ。分かってたけどね! そう答えることは。でも流石にここまでとは思わないじゃん? これだと○比○びたもビックリ………それは流石に言い過ぎか、もう使ったネタだし………そうだな、フグ田カ○オもビックリだわ。
「あのな、藍白」
「うん」
「三十点
それを聞いたときの藍白の顔と言ったら…………言い感じに例えようと思ったけど可愛いしかでてこない。だってちょっと泣きそうになってるんだもん。あ、勘違いしないでね、俺は女子を虐めて興奮するようなド変態じゃないから。
「まあ、あれだ………追試、頑張れ」
励ましのつもりで言ったのが駄目だった。
『追試』という言葉を聞いたとき、藍白は明らかに絶望していた。
「だ、大丈夫だって。テストの解き直しをしてれば追試なんて楽勝だから………多分」
大丈夫、だよな? 追試がどういうものかは分からないが、そこまで難しいわけではないだろう
……………あ、でもウチの高校の追試って合格点が高いって聞いたことが……………。
「………それなら」
俺がこれからの藍白に哀れみの感情を抱いていると、藍白は小さな声で呟いた。
「………?」
何か言おうと口をもごもごしている。
「それなら………」
「それなら?」
「………勉強、教えてくれる?」
その時の藍白の上目遣いとワードの破壊力で、俺は一瞬死にかけた。
ということで、次回は二人きりでお勉強になりそうです。
後書き
読んでくださってありがとうございます!
ラブコメを書くのは初めてなのですが、書いててものすごく楽しかったです。これからもっと藍白の可愛さを引き出していけるように頑張ります!
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