第10話

「先輩、すみません。相談があります」

「どうしたの?」

次の日、コーチング先輩に思い切って話しかけてみました。

「飲んでみたいカクテルがあります」

「えっ?また思いも寄らないことを」

「この前、目標に辿り着くために、っていう話をしていたもので」

「うん。じゃあ、そのカクテルはどこで飲む?その課程も全部洗い出してからもう一度私に言いに来て」

コーチング先輩は女性ですが、バーに行ったりもされることを以前耳にしていたため、言ったら一緒に行ってくださるかなと思って声を掛けてみたのでした。

ブルームーンが飲めるバーをスマホで検索しまくり、場所や金額なども色々と調べまくりました。

バーにはチャージ料金というのが必要なところもあることもその中で覚えました。

チャージ料金とは、席の料金みたいなもののようですね。

あと、少し早い時間に行くと安く飲めるというハッピーアワーという存在。

全く知識ゼロの私でも、検索しているうちに覚えたものがたくさんありました。

「あの、ここのホテルのラウンジがいいかなと思ったんですが先輩はいかがですか?」

「いいねぇ、タワーホテルで景色も良さそうだし、仕事終わりに寄りやすいね。ここにしようか?」

決まり始めたらどんどん計画は動き出しました。

店の中では、バーテンダーさんが跪いてオーダーを取りに来て下さるなど、初めての経験も色々。

カウンター席に座れなかったので目の前で作るところは見られませんでしたが、運ばれてくるまでのドキドキはたまりませんでした。

「はい、ブルームーンでございます」

目の前に現れたのは、透明な薄紫色の液体。

カクテルグラスに入れられ、神秘的な光を放っていました。

「うわぁ~!来たぁ~~!!」

「あはは、早く飲んでみたら?」

緊張とともグラスに口を付けると、冷たい。

そっか、カクテルって冷たいんだっていう感覚。

口の中には、甘くて魔法のようにふわぁ~っと広がる香り。

感動と感激とが一緒くたになり、喉の奥から身体の中へ染み渡っていく感じ。

何もかもが嘘みたいな本当の出来事でした。

カクテルなんて大人の飲み物、私は一生飲むことはない。

だからこの物語も書くことは出来ない。

そう思っていた自分って一体何だったんだろうかと。

「美味しい~!!すごいです、魔法みたいです!!」

「そんな喜び方してる人初めて見たよ。良かったね」

コーチング先輩は大人の表情で自分の頼んだカクテルを飲みながらこちらを見て笑っていました。

「目標を定めたら、そこへ辿り着くための道順さえあれば簡単でしょ?」

先輩はそう言って、ナッツを口にしてカクテルを味わっておられました。

確かに、カクテルの件ではそうだったかもしれない。

けれど、それで創作が出来るかと言われるとそう簡単ではないんじゃないかと私は思いました。

頭が働かないんですもん。

ネタが纏まらなければ書けないんです。

またここで私は行き詰まることになってしまいました。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る