第9話

「考えてることがあるんですけど、それを仕上げることが出来たらいいなって、おぼろげには思ってます」

「その考えてることって具体的に何?」

創作です。

とは先輩に言えなかった私は口ごもりました。

「一つのことを仕上げて、それが出来たあかつきには祝杯をあげたいです」

「う~ん、何のことだか分かりづらいけど、まぁいいか。その祝杯をあげてる自分が未来にいるわけ。そこへどうやって辿り着くつもりしてる?」

パソコンで作品を書き上げること。

それが私の答えだったけど、ナイショにしているから言えない。

「えっと……断片を一つにして繋げて、最初から最後までを通してひと繋がりにして……」

「ふ~む。それをするためにはどうしたらいい?」

その時の私の頭の中に転がっていた断片というのは、バーテンダーが女子高生に付きまとわれるラブコメでした。

だけど、私はバーなんて行ったこともなく、お酒も好きこのんで飲む方ではないので何の知識も無いに等しい。

イコールその作品は書けないで葬られていくことになるのだと諦めていたのです。

高校生の頃に描いた主人公のバーテンダーくんの絵を見た人から、物語になって動いてるところが見てみたいと言われたことがきっかけだったのですが、だけど私には書けないんだよなぁというどうしてもネガティブな思い。

「知識が無いから出来ません」

「その知識があれば出来るの?なら、知識を身につけることだね」

そこでその日の会話は途切れましたが、どうしても頭にこびりついて離れないままずっと考えていました。

何とは具体的には聞かないけど、水無月さんが言うなら協力もすると先輩は言ってくれていました。

知識。そう言われてもなぁ。カクテルなんざ飲んだこともない。

バーにも行ったことがないしなぁ。

家で寝転び考えながらスマホで「カクテル」でネット検索していると、画面上にはものすごくたくさんの素敵なカクテルが表示されました。

ピンクに黄色、グリーン、白、赤。

色とりどりの大人の世界。

宝石のようにきらきらしていて、夢でも見ているかのようでした。

その時目に留まったものが「ブルームーン」。

薄紫色のカクテルで、「出来ない相談」「奇跡の出逢い」というダブルの意味を持っていうらしい。

カクテルには花言葉のようにそれぞれ意味があり、それを使って愛を伝えたりするそうだということも分かりました。

へぇ~という気持ちで見ながら、先ほど見たブルームーンが頭から離れない。

どんな味がするんだろう、飲んでみたいなぁ。

あのカクテルを飲むことが出来たら、もしかして創作が前に進むかもしれないだなんて、勝手な考えも浮かんできました。

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