夢ではない。だが、転生はしていない
体中が冷たい。今俺は川に沈んでいるのだろうか?
ああ、夢だというのに。
あいつは、神は俺に感情を入れているのだろうか?
やっぱり、これは夢じゃないのだろうか?
最後に思った事は、これしかない。
--俺は、死ぬのか?
すると、急に体が温まった様な気がした。
目を開けると、俺は薄暗い小屋の中にいた。
何だ?ここは地獄か?天国か?いや、どっちもあるわけないだろう。
俺は今どこにいる?生きているのか?
いや、きっと生きているのだろう。そして、此処は我が家だろう。
死んでいたら、こういうふうに考える事も出来なかったらしいし、大体天国や地獄なんてものはあるわけない。
頭が痛い。我が家の事も思い出せない。
しかし、思い出せないが多分俺は我が家に戻ったのだろう。
やっぱり、あれは夢だったのだ。ついに、俺はあの夢から抜け出せた。
ホッと息をついたその時。
『いや、あれは夢でもない。しかも、お前はあの世界から抜け出せていない』
あいつの声が聞こえた。
「何で……お前っ」
『いいか、お前は川に溺れるところだった。お前は異世界転生したから、まだ生きている事になる。このままだと、お前は死んでいた。俺 私は神の力を使って、お前をこの子屋に移動させた、という事だ』
神は俺の言葉を無視して言った。
どうしてだ?俺はまだ抜け出せていなかったのか……?
そう思うと、怒りが噴水の様に湧き上がってくる。
「何でだよ!どうしてそこまでする!?俺はまだ信じれない!夢じゃない事は認める!お前が神様だって事も認める!だけど異世界転生した事は認めない!いいか、お前は何でも出来るんだろ?だから、現実世界で俺をからかっているんだ!」
俺は拳を隣の机に叩きつけた。手がジーンと痛くなる。
痛みが感じる……?やはり、夢ではなかった?
最終試合で負けた時の様な悔しさが、俺の感情を包み込む。
『……何故だ?お前は何故そこまで信じない?私は不思議でたまらない』
「俺は……」
俺は息を吸って、言う。
「ずっと異世界転生物の小説を読んできた。しかし、信じられなかった。そんな……ミラクルな事は絶対起きないと思ったからだ。だから、そんな小説を読んで「異世界転生してーなぁ」とか「異世界転生!これは絶対にある!」とか「異世界転生って凄えな!憧れる!」とか言ってる奴が、俺はムカつくんだ……。お前だって、何で俺を呼んだんだよ?何でも出来るんなら、俺の性格や情報を調べれば良いだろ?」
『……そうだな』
「そうだなじゃないだろ」
『…………そうすればどんなに良かったか。私はお前はうんざりだ。だが、このままだと間に合わない。私は言っただろう、「お前にこの世界を救って欲しい」と。今、この世界は魔王のせいで危機に陥っている。このままだと、この異世界が魔王に乗っ取られてしまう。そうなれば、魔王は大きな力を持つことになる。そうなったら、他の異世界も乗っ取ってしまうだろう。そこで、たまたま死んだお前がいたから、唯一の頼みにお前を呼んだんだ。だから、これはしょうがない事なのだ』
「…………」
俺は理解出来ないまま、ただただ黙っていた。
『だから、頼む。この世界をお前の力で救ってくれ……!」
「……っ!」
俺はカバッと立ち上がった。
「くっそぉぉぉおおお‼︎」
そして、大声で叫び、子屋を出た。
分かったから、もうやめてくれ。
そう思いながら--。
♢♦︎♦︎♦︎♢
一方、神様のいる天国では--。
「……アンドル様。本当にあの男で良いのですか?」
神様……サイロークス・アンドルの手下、言うならば「天使」という存在だろうか。
羽をパタパタと上下に動かし、さっきから黙ったままのアンドルに問いかける。
すると、アンドルはニヤリと笑って、言う。
「ああ。あいつは使える。シッシッシ」
この光景を俺が見たらどうなっていただろう。
きっと、誰が見ても恐ろしい光景だったはずだ。
いや、そうに違いなかった。
異世界転生?そんな事は信じないからな〜信じないまま異世界生活を送る、不思議な男の物語〜 月影 @ayagoma
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