第39話 戦いの後始末

 自警団員達は拘束作業や捕まえた者達を連行するのにとても忙しそうだった。


 何せ50人以上もいるのだから人数の少ない自警団にとっては、大変な作業だった。


 特殊雷撃警棒は、重要な犯罪の証拠の一つとして確保された。王都で使用の巡回警備兵に採用されている武器をこんな犯罪者の奴隷商人が持っている事自体がおかしい事なのだろう。


 取り調べが進めば、ゼノアが普段行っていた犯罪より大きな問題となりゼノアを追い詰める結果になるのではと思った。


 それは勇者タカギがこの国でどれ程の扱いを受けているかに関わってくる事だろう。


(勇者の提案した武器の横流し、これは関わった者達は痛い目を見るかもね……)


 メイドのロゼは団長と話をしている、犯罪被害者として証言を求められる場合もあるらしい。


「ジャン団長、ご苦労様でした。この武器の横流しだけでも十分罪に問えるでしょうね。奴隷売買に関わった者達の摘発も進むことでしょう」


 そう言うと身なりの良い若い男が森の奥から現れた。


「ジェノア監察官殿、事が済んでからのご登場、ご苦労様ですな」


 出迎えた団長の声に多少の嫌味が混じっている。


「文官の私に荒事を期待されても困ります。取り調べの為にその三人は後ほど私の部下が引き取りに参ります」


 ジェノア監察官と呼ばれた若い男には、団長の嫌味も些かの痛痒を感じないようだった。


「他の連中はどうなる? 今回の件に深く関わってそうなのは三名くらいだが、他のも街の厄介者には違いねえ。犯罪奴隷として強制労働でもさせるのか?」


 団長のその言葉に、ジェノア監察官はチラリと拘束された男達を一瞥した後、「その三名もこちらで引き取りましょう……他の者達は犯罪奴隷として前線送りとなるでしょう。後ほど、刻印官を派遣しましょう」


(前線てことは、魔族との戦いの場所に送られるのか……まああまり同情できない者達だけどね)


「そうしてくれると助かるぜ、犯罪奴隷の刻印が終われば後は警備兵に引き渡せる。やれやれ、あの数相手で頭を悩ませてたところだったがさすが、監察官殿、即決裁判権は伊達じゃないぜ!」


 さっき嫌味を言った事も忘れたように団長は上機嫌になった。大量の犯罪者を抱えて余程困っていたに違いない。


「何でも行使出来る権限ではありませんよ。それでは私はこれで……世界樹の森を失ったエルフですね、お気の毒に……」


 ロゼの背中におぶわれたエリスを見てジェノア監察官はそう呟いた。


「ああ、そうだな……だが今の世の中じゃ国を追われる者達なぞ珍しい事じゃねえ」


 団長も同情籠った視線をエリスに向けたが、首を横に振るとそう言った。


「そうですね……珍しい事ではありませんね。……それでは」


 そう言い残すと、ジェノア監察官はもう振り向く事もなくこの場を去っていった。


「おしっ、俺達も引き揚げるぞ!」


 暗い森の中、団長の号令とそれに呼応する自警団員の声だけがそこには、響き渡ったのだった。


◻ ◼ ◻


「お嬢様、今は何処に滞在されているのでしょうか?」


 背中にエリスを背負ったロゼが前を歩くセナに聞いてきた。


「訳あって自警団事務所の仮宿泊施設でお世話になっていましたが、あれだけの人数の者達を収容するのも大変そうなので、そこはもう出ると自警団の方に申し出て来ました」


 例の悪人達も捕まったので、セナ達が仮宿泊施設にいる理由もなくなったのだ。何時までも世話になっている訳にはいかないのだ。


「それでは私達の宿に……と言いたいところですが一人が寝るのがやっとの狭い場所なので入りきれませんね……」


 恐らくミーナが滞在しているような宿が難民街には他にも存在するようだ。


『ビスタさん、ロゼ達をクランに保護する事は可能ですか?』


 セナ達と今後も一緒に行動するとすれば、ロゼに内緒にする事は無理だろうと思われたし、彼女に隠す理由も特になかった。


『分かった、ちょっと待って』


 私がロゼとエリスをクランに加入させる意思を持っと同時にシステムメッセージが表示されたので、迷わずYESを選択した。


『保護したから、説明はセナにお任せするね』


 私がそう言ってセナに丸投げしようとした時――


「精霊シルフ……無事だったのですね……」


 ロゼの背中で目を覚ましたエリスが、私を見てそう呟いたのだった。

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