第40話 新しいクランメンバー

 私はエリスの言葉に驚いてしまい何と答えようかと考えを巡らしたが、どう答えたら良いか全く思い付かなかった。


 エリスは恐らく知り合いの精霊と勘違いしているのだろう、私はこの世界に最近、浮遊精霊として転生したのだから、知り合いのエルフ等いる筈がないのだ。


「エリスさん眠ってしまわれたみたいですね……」


 セナがロゼの背中のエリスの様子を見てそう呟いた。あの様な事があった後だから疲れているに違いなかった。


「こんなところに扉が……」クランに加入した事でロゼにも扉が見えるようになったようだ。


 セナに説明は丸投げしていたが、セナは「ロゼ、そこにいる精霊のビスタさんが、これから精霊の迷い家に案内してくれます」と言って私の方を一瞥しただけでロゼにそれ以上の説明をしようとはしなかった。


 当のロゼも私の方を見て頷くと「お嬢様がそう仰るなら私は従うまでです」と物分かり良い態度を示したので手間がかからず助かった。


 口で説明するより実際に見て貰うのが一番理解が早いだろうと思われた。


「さっきまで森にいたはずなのに、扉の向こう側がこんなリビングなんて……まあマナお嬢様!」


 森から一転、リビングにいる事に驚いたロゼがリビングで待っていたマナに抱きつかれ驚きの声をあげた。


「ロゼ! 元気だった?」


 背中にエリスを背負い、涙を流したマナに前から抱き付かれ、喜んではいたが身動きが取れなくなったロゼがさすがに困惑している。


「ロゼとにかく、エリスさんをソファーに寝かせて。マナ少しの間我慢なさい」

 

 セナに注意され多少ぐすっていたマナだったが、すぐに大人しくロゼを解放した。


「お嬢様達がご無事で安心致しました。それにヤン、お嬢様を無事、お守りして立派ですよ」


 普段は無口なヤンもロゼに誉められて笑顔を見せている。


「いろいろとお伺いしたい事も御座いますが……まず最初にお伝えしなければなりません……フォフナー様はご無事です」


 ロゼの言葉に最初は覚悟を固めていたセナの緊張が皆に伝わり部屋は一瞬静まり返っていたのだが、朗報に一転明るい雰囲気に包まれた。


「お父様がご無事……そ、それで今は何処で、どうしておられるのでしょうか?」


 セナの目に涙が溢れた。そのまま泣き崩れてしまうのではないかと思ったのだが、セナは気丈にもそのまま質問を続けた。


「フォフナー様は、救援に駆けつけて我々を救って下さった勇者タカギ様の魔族への反抗作戦に参加する為に、他の生き残った騎士様方と共に港湾都市カイエスブルグから旅立たれました」


 ここでも勇者タカギの名前が出てきた事に私が注目していると、「お父様に逢いたい!」マナが泣き出してしまった。


 父親が無事だと分かって喜んでいたマナだったが、すぐに逢うことが出来ないと分かると悲しくなってしまったのだろう。


(しっかりしていてもまだ五歳なのだから無理もないよね……)


 結局、セナとミーナの二人がかりでマナを宥めて個室に連れていった。


 ロゼはエリスをソファーに寝かせたままなのが気になっていたようで、空いている部屋があればそこで休ませてやって欲しいと私に申し出た。


「ミーナの部屋が空いているだろうけど、ちょっと待って」


 私は思い付いた事があったのでリビング奥の個室につながる扉を開けた。


「やっぱり個室が増えてる……ロゼ、エリスを連れてきて部屋に案内するよ」


 廊下を歩きながら部屋のネームプレートに自分の名前が書かれた部屋があるのを見てロゼが驚いたような表情で私を見た。


「いつの間にか私の部屋までご用意頂けたんですね、驚きましたありがとうございます」


 ロゼが感心したような様子で私を見て笑顔でそう言った。


「こっちがエリスの個室ね、ロゼも自分の個室は好きに使ってくれて構わないわよ」


 部屋に入ったロゼは、「ここならエリスも落ち着いて休めそうです」そう言うと暫くエリスに付き添うつもりらしく側にあった椅子に腰掛けた。


「何か用があったさっきのリビングにいるから」


 私はロゼに声をかけるとエリスの部屋を出た。リビングに戻るとセナとヤンが朗報を受けたにも関わらず真剣な表情でソファーに座っているのが気になった。


「ロゼは暫くエリスの様子を観ていてくれるみたい……どうしたのそんな深刻そうな表情で?」


 父親が生きていたという朗報を聞いた後の表情には見えなかった。


「お父様の事です。反抗作戦に参加されるというのが気掛かりなのです。私も間近で魔族に率いられた魔物達を見ました。お父様は冒険者としてAランクとなり騎士爵を賜った武勇に優れた方ですがそれでも心配なのです」


 この世界のランクAの強さが分からないが、準貴族と呼ばれる地位を与えて召し抱えようとするぐらいには有能なのだろうと思った。


「そうねえ、勇者タカギはなかなか有能なんじゃないかと思っているのよ……強さについては、また後でロゼに聞くとしてね」


 セナは私が突然、勇者の名前を出した事で私の意図を計るような表情を見せた。


「今日のゼノアが持っていた特殊雷撃警棒とかを普及させようとしたり、セナのお父さん達を組織して戦いに挑もうとしている様子から考えても、単純な武力一辺倒な人間ではなさそうよね」


 仮に勇者の力が強くても独り善がりな人間であれば、連携も取れず相手が軍として襲って来るような相手の場合、対応に苦慮するのではないかと思ったのだ。


「そうですね……勇者様が有能な方であればお父様の事も少しは安心出来ます」


 私にはセナを安心させられる程の力も言葉も持たなかったので、ここは一緒に戦っているかもしれない勇者に頼るしかなかった。


「もっと色々と情報が欲しいわね……それにはせめて都市ミザレの冒険者ギルドとかに加入したいわね」


 私の言葉にセナも大きく頷いたのだった。

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