第38話 自警団の戦い6
剣で触れるだけで手が痺れるというのは、厄介な能力だった。勇者タカギが巡回警備兵という職種に採用させているのだとすれば、恐らく殺傷するほどの威力が出ないように調整されているに違いない。
職種の名称から推測するに、逮捕、拘束が役目のような気がするので、いきなり相手を殺すような武器より特殊雷撃警棒は最適な武器になのだろう。
(さすまた、とかも導入してたりするのな? 現実にあれば拘束用として便利そうだけど)
ゲームでもこの手の武器は、イベント用のネタ武器として配布したりしていたのだ。
私が、そんな感想をノンビリと持っていられたのは、団長達がゼノアの言葉を警戒して睨み合いの状態に入っていたからだ。
ゼノアの取り巻きは二人で【鑑定】の結果、元ランクDの冒険者らしい。状況は人数的にも実力的にも拮抗しているようだ。
「よお、どおしたよ、攻めてこねえのか? さっきまでの威勢は何処いっちまったんだ? 下手に麻痺すればこの武器でバッサリだもんな……わかるぜぇ」
ゼノアは完全に挑発モードである。剣で触れただけで麻痺というのがハッタリの可能性もあったが、団長達はエリスが特殊雷撃警棒で昏倒させられる所を見ているのだ警戒するのは当然だった。
私が状況を変えるべく動こうかと考えているその時――
「【ウィンドブレード】」
飛び込んできたミーナがいきなり魔法をゼノアに放ち、取り巻きの一人の特殊雷撃警棒を木剣で打ち払った。
「何だと!」
団長達を雑魚の烏合の衆と煽ってはいたが、実際はかなり団長達に意識を集中していたのだろう、小柄で素早いミーナが低姿勢の状態で接近し、いきなり魔法を放ったのだ……その結果は見事な奇襲攻撃となったようだ。
私はゼノアと取り巻きの一人がミーナの奇襲により、厄介な特殊雷撃警棒を落としてしまったのをぼんやりと見ていた訳ではなかった。
取り巻きが落とした特殊雷撃警棒を【収納】して、少し離れたゼノアのそれを、【ウィンドブレード】で団長の元に吹き飛ばした。
威力の弱い私の魔法でも、この程度の嫌がらせくらいは出来るのだ。団長は素早く動き私が吹き飛ばしたそれを拾い構えた。
私は【収納】した警棒を不自然にならないように注意しながら、私の側にいた自警団のリサの処に取り出して転がした。
リサは奇妙な表情をしていたが、素早く拾うと団長と同じく構えた。
「やっぱり、俺達自警団の勝ちのようだな。さあどうする?」
団長の先程と同じく強気の姿勢でそう言った。
「くそっ!」
ゼノアは先程までの強気の姿勢が嘘のように、その場から逃げ出した。
「ぎゃあ! 痛てぇ!」
逃げようとしたゼノアの脚にクロスボウの矢が突き立っていた。それは密かに回り込んで機会を伺っていた狩人のようなヤンの一撃だった。
「武器なんぞに頼らず、元Cランクの実力のみでまともに戦っていれば負けたのは俺の方だったかもな」
団長はそう言うと警棒をゼノアに当て雷撃を放ったのだった。
特殊雷撃警棒を失った取り巻きの男はミーナの追撃とリサの使った特殊雷撃警棒の雷撃によって皮肉にも昏倒させられた。
残りの一人は仲間二人が倒れた事を確認すると抵抗を諦めて武器を手放したところを拘束されたのだった。
終わってみれば随分と呆気ない幕切れだった。まさか電気を通しにくい木剣だった事がこんなところで役に立つとは思わなかった。
雇われた者達も拘束されたようだった。自警団にも怪我人はいたようだが何れも軽症のようだ。
少ない人数での不利な戦いだったが、皆が軽症程度で済んだのは日頃の訓練の成果と魔物との実践経験の豊富さ故だったに違いない。
ミーナと揉めたダンも軽症で済んだようだ。私は皆が無事に済んだ事にホッとしていた。
そして、団長に勝手に戦いに参加した事を叱られながらも頭をグリグリと撫でられて気持ちよさそうにしているミーナを見つめて満足した気持ちになっていたのだった。
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