第37話 自警団の戦い5
ふよふよと上空から監視していた私には、ゼノアという男が今回の件でかなりの数の人員を集めている事が丸見えで、一目瞭然だった。
「良く集めたわね……」
私が感心している間に、二人の女性がセナ達に絡んでいた三人の男達に案内されてやって来た。
私は素早く【鑑定】して、二人の素性を確認した。フードを着て容姿を隠しているのが世界樹の森出身のエルフのエリスという名前らしい。
そして驚いたのは、もう一人の女性でメイド服を着た年若い女性で年の頃は18ぐらいだろうかロゼという名前らしい。彼女は【鑑定】の結果、フォフナー家の戦闘メイドだという事だった。
セナ達の関係者という偶然にも驚かされたが、私が更に驚いたのは、この世界には従者と同じ位置付けで戦闘メイドなどという職種があるという事だった。
(護衛兼メイド? まあ要人のお世話という意味では合理的なのかな……)
『セナ、あなたの家のロゼっていうメイドさんが、今回の件に巻き込まれているみたい、強いみたいだけど……相手もそれなりに強そうなのよね』
私が【心話】で報告すると暫く何の反応も返ってこなかったのだが――
『ロゼ無事で居てくれたのですね……奇妙なメイドと聞いてもしやと思っていましたが……』
(やはりセナから見ても戦闘メイドは奇妙な存在なんだね)
私とセナとの【心話】での会話に『ロゼ! 逢いたい!』とマナが割り込んできた。
『ビスタさん、ロゼは強いですが無理をするような性格ではありません。敵わないと分かれば即座に引く勇気があります』
セナと会話をしている間にも、状況は刻一刻と変化していく。
『あ、囲まれた! 明らかに罠だと分かるだろうに、どうしてこんな場所に来るのかな。なんか網みたいな物が大量に二人に……あ、ロゼさんは避けたけど、もう一人のエリスっていう子が……おお凄い! 網をどんどん切り裂いて……ああ……』
私は少し離れた位置からこの状況を見ていた、基本的に自警団が手を出すまでは相手の出方を見るつもりだった。
(あのエリスという子を行動不能した、勇者タカギが広めた特殊雷撃警棒ってやっぱり彼の元の世界にある奴だよね。不思議な二人に力を貰った彼なら簡単に作れるのかな?)
どうやら勇者は、魔族を撃退する事以外にも、この世界に影響を与えるような行動を取っているようだ。
私は彼と同じ世界観を共有する存在だが、彼に取っての現実世界と私の現実世界は違うのだ。ゲーム世界が現実の私とは違う存在だった。
彼は確か勇者召喚によって異世界転移したんだったよね……姿はそのままなのだろうか? 私と違って力を与えられたみたいだけど……もし彼が望む力を与えられたのだとしたら――
(彼はどんな事を望んだんだろう……)
『ビスタさんミーナさんと私、そしてヤンの三人でそこに向かっています。すいませんロゼを助けたいんです!』
勝手に動き出してしまったセナ達を私は注意する気になれなかった。私の実況のような報告を聞いて心配になってしまったに違いない……私の配慮が足りなかったのだ。
『わかった! 自警団も動き出してくれたみたい。セナ達はロゼさんの援護に集中して!』
私がそう言った時には、セナの怒ったような心配しているような声が響いた。ロゼに声をかけているみたいだ。
素早く小回りのきくミーナは木剣を振るって男達の武器を持つ腕や、脚を叩いてまわっている。
ヤンも後方からクロスボウによる牽制を行っている。矢の数が足りなく回収しながらなので、ミーナほどの戦果は上がっていないが数人を無力化しているので十分役に立っている。
自警団は総勢でも15人くらいしかいないらしく、緒戦は訓練された自警団が数の不利を跳ね返しなんとか互角の戦いに持ち込んでいる状態だった。
だが格闘で戦うロゼと盾と魔法を駆使するセナが中心となり、間隙を突いて攻撃を仕掛けるミーナの連携攻撃に、所詮は烏合の衆だった男達の数は次第に減ってゆき自警団の優位に傾いていった。
「こっちは良いとして、問題は団長達よね……」
少し離れた場所で、ゼノアと取り巻き達とジャン団長と自警団の主要メンバーのリサとリカルドが対峙していた。
「どうやら俺達、自警団の勝ちのようだな諦めて降伏したらどうだ?」
数の優位を覆しつつある状況を背景に団長は強気の姿勢だ。
「ケッ寄せ集めの雑魚! そんな台詞は俺達に勝ってからにするんだな!」
そう言うと取り巻きの連中まで特殊雷撃警棒を構え、もう一方には得意の獲物をかまえた。
「こいつに剣で触れるだけでも麻痺するんだぜ!」
ゼノアはそう言うと特殊雷撃警棒を前面に押し出すように前に出たのだった。
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