第36話 自警団の戦い4
「ほー、二人だと聞いていたが少々面倒そうなのが付いてきたみたいだな……まあ、なかなかの上玉のようだ悪くない」
そのゼノアと名乗った男は、エリスにのみ注意を払っていたのだが思い付いたように私を見てそう言った。
「ロゼは関係ありません! 用があるのは私だけです。指輪を何処で手に入れたかあなたが知っているとそこの者達に聞いてここに来ました。もし持ち主が何処にいるかの情報を知っているのなら、それなりのお礼は致します……」
エリスは胸元から袋を取り出して見せた。それなりのサイズはあるようなのでまともな情報屋であれば、其なりの交渉も可能だったかもしれない。相手が、まともであればだったが――
「そうかい、あんたの知り合いって言うなら、そいつもエルフなんだろうな。なら俺も何処にいるか知りてえもんだぜ!」
その下卑た表情はまともな相手のものでは無かった。だがこれだけ堂々と本性を見せるという事は、既に私達をここに連れて来た事で勝利を確信しているのだろうと思われた。
相手を完全に舐めてかかっているのか……もしくは、相応の準備を整えているかだ。
「エリス様、どうやら彼は何も知らないようです。これ以上相手をしても無駄でしょう」
私を見たときの反応から恐らく何らかの準備をしてきていると考えた私は急ぎここを離れるべきだと考えたのだ。
「そのようですね……残念です。ロゼ、申し訳ありませんこのような事に付き合わせてしまって……戻りましょう」
エリスも罠ではないかと思っていたのだろう……それほど残念な様子には見えなかった。このような状況での彼女のその余裕のある態度は自分の力量に対する自信から来るのだろう。
「おっとそう都合良く帰す訳にはいかねえな……お前ら出てこい仕事の時間だ!」
男の掛け声を合図に製材所の中や、裏側に潜んでいたのだろう男達が現れ素早く私達を包囲した。それだけでなく、森の中からも男達が現れ、私達は50人を越えるだろう男達に包囲されていた。
「二人を相手に随分な人数ですね……男として情けないとは思わないのですか?」
エリスはそう言うと、腰の左右に差していた2本のショートソードを抜いた。その美しい刀身はその剣が、周囲を包囲している男達の持つ並みの量産武器との違いを如実に表していた。
「【エアリアル・ウィンド】」
エリスの周囲に風の気流のような物が生まれた。軽装のエリスを守る魔法の鎧とも言うべき魔法を唱えたエリスは真っ直ぐにゼノアを見た。
「あなたも、これだけの人間を率いる者なら其なりの矜持があるでしょう……私と余人を交えず勝負なさい」
エリスは右手に持った剣を真っ直ぐにゼノアに向け突きつけた。
「へっ、強気なエルフのお嬢ちゃんだぜ、いいだろう相手をしてやる」
そう言うと男は黒い棒のような物を取り出し、エリスに向かって歩き出した。
「俺の得物はこれ一本だ。この武器はかの勇者タカギが考案し、最近王都の巡回警備隊に採用された特殊雷撃警棒というものらしい。作りは簡単だがなかなか便利な武器でな……やれ」
ゼノアの合図を受け、私達の頭上に次々と何か降ってきた。私は全力でその場から回避を選択した。
だがエリスは【エアリアル・ウィンド】と2本の剣で次々とその降ってきた網のような物を切り裂いた。
「すげえな、だが正解はもう一人のメイドの方だったな」
ゼノアはそう言うと驚くほどの踏み込みでエリスに近寄ると、特殊雷撃警棒をエリスに押し当てた。
「お前達エルフは自らの魔法と剣技に信頼を寄せすぎようだな。だから逃げを選択が出来ない。それがお前の敗因だ」
ゼノアがそう言うと同時に特殊雷撃警棒が光を放った。それは小さな雷のように見えた。
「うっ……」
エリスが小さな呻き声をあげてその場に倒れ込んだ。
「次はお前だ女! 一斉にかかれ。そいつはお前達が思っているよりも厄介な相手だ」
(余計な事を……油断してはくれないようです)
私は迫り来る男達に構えを取り「手加減は出来かねます!」と告げたのだった。
だが――
「これ以上、我々の縄張りで好き勝手する事は許さんぞゼノア!」
私に迫っていた男達を周囲から現れた自警団らしき面々が攻撃し始めた。
「ロゼ無事? もう何やってるのですか!」
それは私が探しまわっても見つけられなかったセナお嬢様の姿だった。
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