第35話 自警団の戦い3

 ヤンからの【心話】で自警団員達が、現場に向かったと知った私は思ってたよりも時間が早まった事が気になったので、リビングの扉から現場の様子を確認すべく飛び出した。


『皆は私が許可を出すまでリビングで待機していて』


【心話】というのは本当に便利だ、どの様な状況でも意志疎通が出来るというのは、クランルームのお陰でリビングに集まって打合せ的な物やちょっとした会話の為でも直ぐに集まれる環境があっても替えがたい能力だった。


『扉の周囲に変化は有りますか?』セナがそう尋ねてきた。


 自警団が動き出したのだ、現地で人の動きがあってもおかしくない。取引が行われる予定の場所より少し離れた所の木々の影にあるとしても油断は出来ない。


『今のところは変化なしね。私は現場に向かうので誰かひとり扉を出て』


 私が扉の側を離れるとミーナが扉から出てきた。


『状況は知らせるから待機していて』

 

 暗い中で待機させるのは可哀想だが、何かあれば扉から逃げ込めるし、長くなりそうなら交代もすぐ出来るのだ。


『うん』


 ミーナの【心話】と頷く様子を確認した私はふよふよと、取引場所と目される場所に向かうのだった。


◻ ◼ ◻


「クソッ、声を掛けた連中の一組が自警団に逃げ込んだだと! 何故、今頃になってそんな話が俺のところに来るんだ! どういうつもりだ死にてえのかテメェ?」


 思っていたよりも若い男が周囲を睨み付けながら怒りをぶちまけている。


(あれが奴隷商人のゼノアね、なるほど元冒険者で……ランクC)


【鑑定】の人物に対する情報量の多さにも感心したが、若くしてランクCという情報に驚いた。


(以前助けた冒険者のラロは確か……Dとかだったと思うんだけど、二人いてフォレストウルフの群れにひとりが倒され、ひとりが重症を負ったと考えると一つ上のランクCというのはどうなんだろ?)


 ラロを【鑑定】した時は、冒険者という肩書きに注目しただけで、ランクに関しては敵ではなかった事もあって軽く流してしまっていた。


 赤ネームの団長が警戒する相手なのだランクCはミーナより強いと見ておくべきだろう。


「申し訳ありやせん、我々の元にこの情報が来たのもついさっきでして……今からでも中止いたしやすか? そうなるとエルフは諦めるしかありやせんね……仲間に合わせろと矢の催促でして……これ以上引き伸ばすのは無理そうでさ」


 恐らくお抱えの部下なのだろう、睨まれ恐れながらも意見を述べる辺りある程度の信頼を受けているのだろう。


「ちっ、エルフの仲間を捕まえている何て言う嘘がバレるのも時間の問題だな。それで時間を早めたって訳か……まあ良い判断だ。かき集めた連中は使えそうか? いざとなったらそいつらを囮にずらかれる程度の力量は期待したいがな」


 団長の話にあった、お金を使って集めた難民街の者達の事だろう。立場の弱い者がお互いの足を引っ張りあい結局は利用されるのは見ていて気分の良い物ではないが、奴隷売買などという悪事に手を染めた以上容赦する気はなかった。

 

「素人に過ぎませんが普段から荒事に手を染めている連中でさ、多少は期待できるでしょう」


(やはり同情は必要なさそうだ。怪我は覚悟して貰おう)


「いいだろう、普段なら即座に中止するところだがエルフとなれば話は別だ、他の奴らは無視していい。とにかくエルフに集中しろ」


 そう言う男の表情は欲と冷酷さにまみれて更に酷薄さを増したのだった。


◻ ◼ ◻


 魔族の侵攻により壊滅した港湾都市カイエスブルグを出て都市ミザレまで無事やって来れたのは良かったが、肝心のお嬢様方の行方は分からないまま、妙な事件に首を突っ込む事になってしまった。


「エリス様、明らかに罠だと解っているのに危険すぎですよ」


 この街の手前で絡まれていた所に加勢した縁と目的地が同じだった事から同行を申し出たのだが、実際は腕は立つが人馴れないこのエリスというエルフが心配で同行を申し出たに過ぎなかった。


 同行者としてもいくら腕が立っても目立ちすぎる相手というのは不利益の方が多いのだ。銀色の髪をしたこの女の私でも見惚れそうになる美しい容姿をしたこの少女は普段フードで容姿を隠している。


「解っています……ですがあの者達が持っていた指輪の出所が気になるのです……あれはそれほど高価な石ではないですが私の故郷のエルフが子供の頃から身に付けている物です、本人の意思で手放したというのならともかく、もし……」


 三人の男達に先導される形で私達は、事前に聞いていた場所に案内された。そして製材所らしき建物の前に二人の男が立っていた。


(案内の男達もそれなりの人相ですが、あれは不味いですね……自警団に情報を流していなければ、今すぐ無理矢理にでもエリスを連れて逃げ出したくなるような相手です)


「よう、良く来てくれたな。俺の名はゼノアだ、美しいお嬢さん方は大歓迎だぜ」


 その男は愛想よく笑っているような表情を見せたが、その目は全く笑っていないと私には感じられたのだった。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る