第34話 自警団の戦い2

 クランルームのリビングに入ったが、そこには誰もいなかった。まだ時間は早いので皆が自由にしているのを妨げるつもりはなかった。


(でも、何をしているのかは気になるよね……)


「庭かな?」


 庭への扉を出てみると、ミーナとマナの二人が花を眺めて楽しそうにお喋りしているようだ。


 ミーナは年下だが年齢も近くしっかりしているマナとすっかり仲良くなったようだ。


「あ、ビスタちゃんだ! ねえねえビスタちゃん! 私達もお庭に何か植えても良い?」


 私を見つけたマナが飛ぶようにやって来ると楽しげにそう言ってきた。


「かまわないよ、今ある物はそのままにしておいて欲しいけど……空いてるあの辺りなら自由にしても構わないよ。だけど植える物がないよね?」


 私がそう言うとマナはポーチから何か包みのような物を取りだした。


「お家に沢山咲いていたお花なの……たまたま植えた時に余った物をポーチにいれておいて忘れてたの!」


 マナにとって思い出の花なのかもしれないと思って少し切ない気持ちになったが、口に出しては「どんな花が咲くか私も楽しみだよ」と努めて明るく返事した。


「うん、とっても小さな花が沢山咲くんだよ! 早く皆にも見せてあげたいな」


 マナはそう言いながら、庭の隅の空いている場所に種を蒔き始めた。丁寧に種を扱うその姿を見て、マナがそういう作業のお手伝いをよく行っていたのだろうなと思った。


 ミーナもマナのお手伝いで一緒に種を蒔いている。村の出身らしいミーナはそういう事に詳しいのかマナに何か教えたりしているみたいだ。


「ミーナとマナ、二人でこのお庭の様子を時々でいいから見てあげてね」


 この庭には細い管のような物が通っていてそこから定期的に水が供給されるようになっているようだ。


 この古風な庭に随分と高度な仕組みだったが、ゲーム時代にもあった機能なのでそこは深く考えないようにした。


 実際のところ庭は放置していても大丈夫そうだが、ゲームでもお世話をすることで収穫増えたりレア度が上がったりしたので、二人が楽しんでやってくれるならそれに越したことはなかった。


「うん!」


「わかったよ! まかせて!」


 特にマナがやる気のようなので、私は満足してリビングに戻ったのだった。


◻ ◼ ◻


「セナ、入っても良い?」


 リビングにも庭にもいないセナは個室だろうかと部屋を訪ねた。


「どうぞ」


 部屋の中から応えがすぐに返ってきた。

 

「ごめんね、寛いでるところに……少し小物類を置くだけでも部屋の雰囲気は変わるのね」


 セナに自動的に割り当てられた小部屋にはセナの私物らしい物が幾つか配置されていて、ちょっとした個性を感じられる部屋に様変わりした。


「すいません、勝手に置かせて貰いました」


 セナがいきなり謝罪してきたのは、私に許可なく個室に色々と私物を配置した事のようだ。


「いいのよ、狭い個室だけど自由にして。ただ、時々通行させて貰う可能性はあるかもしれないけど」


 個室の扉を転移魔法の出入り口のように使う事を想定しているのだ。


「もちろんそれは分かっています」


 女の子の部屋をずかずかと通行するのは気が引けたけど利便性を考える割り切って貰うしかなかった。


(出来るだけ他の三人に犠牲になって貰おう)


 私が密かにそんな事を考えていると――


「家から逃げ出す寸前に、ポーチに入るだけの物を詰め込んだんです。旅に出た時は慌てていたとは言っても食糧を入れる隙間もないくらい詰め込んで……捨てるに捨てられなくて後悔していたんです。でも、こんなに早く個室を持て無駄じゃなかったと思うと嬉しいんです」


 小ささ机の上には何冊かの本が並んでいた。私が来るまで読んでいたのだろう開かれたままになっている。


「書籍、貴重なんでしょうね。持ってこれて良かったね」


 この世界の製本技術のレベルは分からなかったが、見た目だけでも高価なのは分かった。


「お父様に頂いたんです。実用書が主ですが勉強が続けられそうで嬉しいです」


 セナが年齢よりも大人びているのは勉強熱心なおかげだろうと思った。


「あの……ビスタさん私とヤンだけでも今日の件、手伝わせて頂けませんか? ミーナさん独りだとやはり心配です」


 ミーナは【魔石吸収】でレベル4になっていた。セナとの会話から【契約】による底上げも加味すると普通の人の約7年弱の成長に匹敵すると思われた。


 セナ達もレベル3になっていて、手伝って貰えるなら頼もしいには違いない。


「本当に良いの? 依頼されたのは、ミーナだけだし……それも取り消された訳だから。ミーナにも無理させる気はないから……いざとなったらクランルームに無理やりでも逃げ込むつもりだし」


 正直、ミーナの安全を最優先のつもりだった。


「私達もそのつもりです。正直、クランルームがなければ参加しようとは思わなかったと思います。ただ少し気になる事が……その情報提供者という奇妙なメイドというのが気になったんです」


 セナがそう言った時――


『自警団が動き出しました。予定より早く出発するみたいです』


 すっかり【心話】に慣れたヤンからそう連絡が入ったのだった。

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