第31話 クランルームの活用法

 自警団事務所から出る時に、団長にミーナが声をかけたが「おう! またウサギ頼むぜ!」と何事もなかったようにそう挨拶を返してきた。


(雰囲気からすると迷っているみたい。自警団の団長として重い決断を迫られている様子だな)


 自警団と今夜戦うかもしれない相手がもし互角であったとしたら、ミーナという戦力は貴重だろう。さすがに勝ち目のない相手との戦いにミーナを巻き込んだりはしないだろうと思った。


(できれば相手がどういう奴か知りたいわね)


 私はミーナにひとりで宿に戻って貰い、情報収集の為に自警団に残る事にしたのだった。


(今は人もあまり居ないようだしセナ達の所にでも居よう)


 私はセナ達が居ると聞いている仮宿泊所のある場所に移動したのだった。


◻ ◼ ◻


『誰かドア開けて』


 私が外から【心話】で伝えると、トタトタと音がしてマナがドアを開けてくれた。


 中に入ってみると二段ベットが2つ並んだだけのただ寝るためだけの部屋のようだ。


「ビスタさん、ミーナさんと一緒に帰ったんじゃ?」


 部屋に入ってきた私を、セナが不思議そうに見つめた。


「そのつもりだったんだけど、自警団が戦う相手がどんな連中か気になってね」

 

 私の目的を理解してくれたセナが話を聞いて頷いている。


「確かに自警団を助けたいミーナさんの気持ちも理解できますが、ビスタさんはミーナさんの保護者ですもの無理はさせたくないですよね。ビスタさんが手を貸しても良いと思っているのはどの程度までの相手ですか?」


 セナは私の気持ちを良く理解してくれている。仲間の事を常に考えてこの街までやって来たのだ危険にさらしたくないという思いに共感してくれているのかもしれない。


「そうね、商人の私兵だけなら何人か戦闘出来なくする程度の協力はしたいかな。でも気になるのが商人に権力者が付いていてそいつの戦力まで出てくるとなると厄介ね……そうなると私だけが参加して魔法で撹乱したり防御するくらいかな……」


 実はミーナを説得するためという以前に、団長の話を聞いた時から私だけなら密かに協力しても良いかと考えていたのだ。


「なるほど、そんな夜中に捕まえた人間を密かに街の中に運び込むというのは簡単に出来る事では無さそうですね……そうなると貴族が関与していると?」


 準貴族という上流社会にギリギリ参加している身分とはいえ、いや、だからこそ貴族という者の力と危険性を理解しているのだろう。


「あくまでも推測ね、それに全面に出てきていなければ協力してもいいんじゃないかと思ってるよ」


 動いているのがいざとなった切り捨て可能な者達ならば、計画が失敗しても協力した私達までどうこうしようとまでは思わないのではと考えた。


(自警団に対しては分からないけどね)


「ミーナがそろそろ到着するみたいだから移動しよう。夜までにやっておきたい事もあるし……【オープン・ルーム】」

 

 私は仮宿泊所の目立たない部屋の一番奥に扉を開くとクランルームに入って行った。


◻ ◼ ◻


 外部からクランルームのリビングに入る扉を呼び出す事が出来るのは私だけだが、クランメンバーも自分の個室を経由すれば当然リビングを利用できる。それが離れた場所からだとしてもだ。


 ミーナには、宿にもどって部屋に入ってから扉を使いミーナの個室から合流するように言ってある。


「お庭行ってくるね」


 マナは花の咲いている庭が気に入ったようだ。リビングに駆け込んでくるなりそのまま庭への扉から出ていった。


「クランルーム……お部屋としても便利ですけど、何処でも呼び出してこういう使い方も出来るんですね」


 入って来たセナが驚いたようにそう言ってリビングのソファーに座った。


「扉、外でしか使えないと思った?」


 セナの感覚では部屋の中に部屋が入ったような奇妙な感覚なのかもしれない。


「はい、広い草原で使われたのが最初だったので、ある程度広い場所が必要なのかと思っていました」


 セナ達にはまだ詳しい事はそれほど説明していなかったのだ。


「そうね……例えばマナの個室の扉から外に出ると草原に出られるわよ」


 私の説明にセナは驚いたように私を見た。


「ビスタさんそれって……」


 セナもようやく気がついたようだ。


「そう使い方によってはクランルームを経由した、転移魔法のような事が可能になるわね」


 私がそうセナに話している最中にリビング奥の部屋からミーナが飛び込んできた。


「これおもしろいね、ビスタ!」


 それは私の説明を裏付けるように自警団事務所から離れた宿にいるはずのミーナの姿だった。

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