第30話 ウサギ狩りの宣伝
「おい、子供達がフォレストラビットをあんなに沢山吊るして歩いてるじゃないか」
私達は狩りが終わって今、中央通りを長い木の棒に吊るしたフォレストラビットを先頭をミーナ後ろにセナとヤン3人がかりで運んでいる。
「ん? 先頭の猫娘は昨日も確かああやって歩いてなかったか?」
昨日ひとりで歩いていたミーナを見ていたのだろう誰かがそう言っているのが聞こえてきた。
「小さな娘もウサギの毛皮を吊るして歩いてるな」
マナも運びたがったので、何枚かの毛皮を運ばせている。注目されたのが嬉しいようでニコニコして歩いている。
「猫娘のマントの紋章見たことあるような気がするな」
(うんうん、良い質問ね……誰か答えてあげて!)
「何だよオメエそんな事も知らねえのか? ありゃあ自警団の団章じゃねえか」
訳知り顔の男性が、私の期待した返答を返してくれた。しかも声が大きい。
「あら、じゃあ自警団もやっと本気でウサギの駆除を始めてくれたのね? 最近、野菜が値上がりして困ってたのよ」
主婦らしき女性が窮状を訴えている。草原に溢れかえるウサギを見てみてしまうといくら自警団の手が足りなくて狩るのが面倒と言っても、もう少し何とかならなかったのかと、私も思ってしまっていた。
「そういう事じゃねえか、子供に運ばせて宣伝か? 自警団も上手い方法を考えたもんだぜ」
訳知り顔の男性が言い出した事は、一部は正解だった。私の目的は団長からの団章を付けての自警団のやる気アピールをするというやんわりとした依頼をより効果的に行う事だった。
自警団には恩を売っておいて損はなさそうだというのが、その理由だったが、保護を求めたセナ達への対応も悪くはなかった。
どうやら悪人どもの取引を押さえるまで、自警団の仮宿泊所に滞在してもかまわないとの事で、到着したばかりの3人はとても助かったようだ。
自警団事務所に到着した4人は解体済みのフォレストラビットを6匹ほど買い取ってもらい、ミーナは自分の宿に戻ろうとしたのだが団長に呼び止められた。
「自警団の宣伝とても助かったぜ! 奢りだ食ってきな」
そう言うと団長が4人分のスープと黒パンをカウンターテーブルに置いた。
「もうご存知なんですか?」
セナが驚いたように尋ねた。ここに来るまでそれほど時間は経過していないのだ情報を知るとしても明日以降と思っていたのだ。
「なにたまたま見廻りの連中が見かけて報告してくれただけだ。それよりも実は今日の件でミーナに頼みがある」
団長の言う今日の件とは、例の3人の絡みだろうと思われた。
「他にも奴等に騙されてた人間と接触出来てな、どうやら今晩、検問所の西側で騙された者達を集めて取引が行われるらしい。俺達は今も密かに監視しているが荒事になる可能性が高そうだ。だからひとりでも多く戦える奴が欲しい」
現地で捕まえて奴隷商人に売り渡すつもりなのだろう。かなり乱暴なやり方だが、私兵のような者をかなり集める財力がある者ならこのような力業も可能かもしれない。
『ミーナ、これ危険そうだから断った方がいいよ』私が【心話】で、そう伝えると『ミーナさん、私もビスタさんと同じ意見です』セナも同意してきた。
「ミーナには戦いよりも騙された者達を自警団事務所に誘導する仕事を頼みたいんだが……いやすまん。やはり強いと言っても子供だ、今の話は聞かなかった事にしてくれ」
団長がミーナにまで話を持ちかけて来たのは、恐らく相手が誰かある程度見当がついていて恐らく現状の自警団の戦力だと厳しいと考えたのかもしれない。
(つまり団長はミーナの実力をかなり高く評価しているのね)
誤魔化すようにその場を離れた団長を見ていたミーナが、『ビスタ、だんちょうさん、たすけられないかな?』と聞いてきたのだった。
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