第28話 初めてのパーティーでの狩り1
クランルームに戻るとリビングルームに皆が集合していた。
「すぐに連絡は取れるという、ミーナさんのお話には驚かされました……声を出さないのにビスタさんの声が聞こえました」
セナが言っているのは、さっきのミーナとの【心話】のやり取りのようだった。クランに加入した3人にも【心話】が使えるようになった事で私とミーナの【心話】のやり取りが聞こえたようだった。
「姿が見えなくても、お互いが遠くにいても会話が出来るんですね? これは凄い力です」
セナは【心話】の便利さに気がついたようだ。人前で内緒話をするだけの機能ではないのだ。
「集団での狩りとかでも獲物に聴かれずに意志疎通も出来るからね」
『おもしろいね、これ!』
『うん』
マナは既に自然に使いこなしていてミーナと【心話】での会話を楽しんでいるようだ。
『あの』「これ」『難しい』「です」
ヤンが慣れないのか一部が普通の会話になっている。
『そうですか? ちょっと意識すれば簡単ですよ? そうでしたビスタさんはあの森を探索されたのですよね?』
セナも特に問題はないようだ。ゲームでもこういった会話手段は、女性の方が適応が早かったように思う。
『ヤンは暫くの間は【心話】で会話ね! ――セナ、この扉の向こうも見たんだね』
ヤンには狩りで多用するこの力に早く慣れて貰わないといけないのだ。
『はい、でもビスタさんの姿が見えなかったので、お庭だけ拝見してここにもどって来ましたの……素敵なお庭でした……家の庭を少し思い出しました』
そう言うセナの笑顔の中には寂しい表情が隠れているのを感じた。だが何があったのかは聞いていないので知ることは出来なかった。
この難民街にも人が増え続けているらしいと聞いた。小さな森に転生して他の場所を知らず、この街にたどり着いた私はこの世界の現実をまだ知らないのだ。
希薄な存在として生まれかわる私に、比較的安全な場所に生まれ落ちるように配慮して、この世界を安全に知る時間をくれたのだろう謎の二人に、私は密かに感謝したのだった。
◻ ◼ ◻
『ヤン、ここにウサギがいるよ!』
私の言葉に静かに低姿勢で音もなく移動したヤンが、クロスボウを構えたと思うとフォレストラビットの首筋に正確に矢を打ち込んだ。
「ギャエッ」
気味の悪い断末魔の悲鳴を放ち、フォレストラビットが倒れた。私は素早く刺さったクロスボウの矢ごと獲物を【収納】した。
クロスボウの矢の先端部分に鉄を使用しているのだが、鉄の量が不足していて3本しか作れなかったのだ。
中央通りのお店は食べ物や完成品を売る店が多く、素材をそのまま販売する店は見かけなかった。
加工して販売した方が儲かるのだから、そうなるのは当然の流れかも知れないが、新規の加工業者の参入障壁のような物かも知れない。
製品があるのだから何処かに素材を供給している者はいるのだろう、だが表には出てこないのかもしれない。
素材の供給の伝がなければ物を作って売るような事を始めたくてもなかなか入り込めないだろう。
(そう考えるとゲームの精霊の森にあったインスタントダンジョンが無かったのは残念ね)
ゲームの時に扉から精霊の森に行くのは一つの演出のような物で、エリアチェンジして移動した先の森の中にダンジョンの入り口があったのだ。
そこの台座に各地のダンジョンをクリアして入手したカードをセットするとクリアしたダンジョンに手軽にチャレンジ出来るようになるのだ。
停滞していたマーシャルS.E.N.S.オンラインの末期の緩和措置だったが、一時的に移動が困難なダンジョンが人気になったりして無駄になっていたゲームリソースを有効活用出来た管理者サイドからすると悪くない変更だった。
だが、苦労して周回して欲しいアイテムを取得したコアなユーザーからは、延命だのヌルゲー化だの醒めたという意見も聞かれ、ライトなユーザーには一時的に好評だったが、簡単に周回してある程度欲しい物を手に入れると直ぐに飽きて他のゲームに移って行った。
そして苦労して取得したアイテムの価値を無にされたコアユーザーも、去っていったのだ。システム管理AIの私にはシナリオ自動生成やダンジョン自動作成機能が備わっていたので、新たなダンジョンを作成してみたのだが一度醒めてしまった大半のユーザーの心を取り戻す事は、私にも無理だった。
(さすがにダンジョンカードはこの世界に存在しないだろうけど、初心者向けのインスタントダンジョンが一つでもあれば、素材の問題も解決出来たんだけどね)
インスタントダンジョンは、採取した素材が翌日には回復しているのだ。だが現実にそんな都合の良い物があるとは思えなかった。
だがあのクランシステムのある空間なら期待が持てそうだと考えていたのだ。
私は過去の苦い経験を思い出しながら、ヤンに獲物の位置を知らせ、ミーナとセナの元にフォレストラビットを追いたてていたのだった。
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