第27話 箱庭

 私は扉からその小さな美しい庭に出てみた。庭には色とりどりの植物や花が植えられていて、ちょっとした癒しの空間になっている。


 庭の隅には、木製のテーブルセット等もあり、庭でも食事等ができそうだ。


 綺麗だが地味な花の種類が多いのは、観賞用の花ではなく調味料やハーブティーの材料になる花や薬草等の実用的な物が植えられているからだ。


 ゲームの時はちょっとしたオマケ要素に過ぎなかったが、現実の世界となると少量とはいえ確実に入手出来るのは有難たかった。


「ゲームみたいに採取しても、翌日には回復するのかな? それだと有難いんだけど」


 確実に入手出来るのではと考えたのは、ゲームの世界でそうだったからだ。私は試す意味で調味料に使える植物を採取して【収納】しておいた。


「同じでありますように……」


 転生した森で採取した調味料の代用になる植物も量が減ってきていたので、ここで採取出来るならとても助かるからだ。


「いざ買うとなると高いんだよね、こういう危険な場所での採取が必要なものって」


 ここに無造作に植えられている物の中にも、私が中央通りの店で売られているのを確認して価値を把握している限りでも、少量でも銀貨が何枚か必要な物がいくつかあった。


「まあこの庭だけでも普通に考えれば貴重なんだけど……問題はあれだよね……」


 私は庭にある柵の扉の向こうに広がっている森を見やった。


「この森、やっぱり精霊樹の森だよね。しかも本物?」

 

 森に生えている樹木の何本かを【鑑定】してみて、その木々が景観の為の映像等ではなく実在している森だと【鑑定】結果が私に教えてくれた。


 ゲームの時は周囲の精霊樹の森は、映像であり柵の扉を開けるとエリアチェンジして精霊の森へ移動できるという仕掛けだったのだ。


 ふよふよと柵を越えてみたが特にエリアチェンジのような映像の切り替わりのような違和感もなく私は普通に森の中に践み入る事が出来た。


「やっぱり本物の森みたい」


 後ろを振り返ってみたが、そこには見慣れたクランハウスの建物と小さな庭が存在していて、何処かに飛ばされたという事もなかった。


「でもクランハウスが何処に存在するのかが疑問よね……扉で何処かにある精霊樹の生えている森に存在するクランハウスと繋がったということ?」


 私はもし何処かの森に繋がっているのだとしたら、皆が迷い込んでしまっても困るので、この森がどの程度広いのか確認しようと少し散策を始めた。


 建物が見える範囲で探索しようと考えていたのだが10メートルも行くと白い霧のような物が視界を阻み、そこには見えない壁のような物が行く手を阻んだのだ。


「半円状に見えない壁が存在するみたい……まるで何処かの森を切り抜いたみたいになってる。空の上から見ても一緒ね……まるで小さな箱庭みたい」


 空から見ても霧に隠されて壁の向こうは、ハッキリと見えなかった。だがうっすらと木の影のような姿が霧の向こうに見えるので、箱庭が何処かの空間に切り離されて浮いてるとかの不安になるような状態ではないようだ。

 

(もしかしたら、セナの言っていた精霊の迷い家ってこれの事じゃないのかな)


 私は謎の二人にあるがままの姿で転生させられている。そして私という存在はこの世界に転生する時に、この世界の法則に上手く組み込まれて自然に馴染めるように修正されているらしいのだ。


(セナの話を聞いた時は、その言葉の響きから何かのお伽噺的な物と思っていたのだけど……現実に存在するのなら、クランルームの仕組みが現実の世界の精霊の迷い家に寄せる形で修正されたのかも)


 私はあくまで推測だったが、そんな事を考えながらふよふよと庭に戻って来た。


『ビスタ、どこにいるの?……かりにいくよ』


 ミーナの【心話】が聞こえてきたのだ。どうやら目が覚めて私が居ないことに気がついたみたいだ。


『分かった。すぐ戻るね』


 この森は何らかの形で移動制限がかかっているようなので、皆が迷い込む心配はなさそうだと思った。


 だから私はある程度満足した気持ちで、慌ててクランハウスに戻っていったのだった。

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