第21話 ウサギ肉

 宿に戻ってミーナから、団長と三人の子供達の話を聞いて分かったのは、セナが騎士爵という地位で都市ミザレに入って親の後を継ぎたいらしいという事だった。


 細かい話は本人からもう一度聞きたかったが、一度聞いてるミーナに何度も尋ねさせるのも変に思われそうだったが、そこは上手くやるしかないでしょうと考えた。


 帰りに買い食いしたり、自警団でも食事をしていたミーナだったが出した焼き肉をペロリ平らげ、【浄化】をかけるとすぐに眠ってしまった。


 初めての狩りで十匹ものウサギを狩り、自警団では何度も手合わせし、悪い大人3人から子供達を守ったのだ、こうして考えると何とも色々あった1日だった。


 正直なところ金銭面の問題もクリアしたので、明日は1日休みしても問題なかったが、こう色々と起こるという事はやはり1日でも早く少しでもミーナを成長させたかった。


 次のレベルアップまでは30匹必要なのだ、レベルひとつ上がる毎に要求される魔石が10匹分増えている。だがもちろん止まるつもりはなかった。団長のように敵ではない者が格上なのであれば問題ないが、悪人どもにミーナより強い者がいた場合が不味いし当然いるだろう。それに――


(この世界には魔族などという存在がいるのよね、ゲームでも奴等の強さは別格という設定だったし。知能のある敵は強さ以上に厄介な存在だよね)


 状況に流されたとはいえ、【契約】したミーナが狙われる可能性もある。私の力があてにならない現状、ミーナを強くするしかなかった。


(私が成長する方法はないのだろうか?)


 ミーナの生活が安定してきて余裕が出てきた私は、根本的な問題に立ち返ったのだった。


◻ ◼ ◻


 宿を出たミーナは「ビスタ、うさぎにく、にひきだして」と突然言ってきた。

 

 受け取ったミーナは例のごとく棒に吊るすと串焼き屋のおばさんの元に走って行った。


「おやミーナちゃん、おはよう。本当にウサギ狩りやってるんだね! 疑いたい訳じゃないが、あんたみたいな子供がねえ……自警団っていうのも納得さね」

 

 おばさんは喜んで二匹を買い取ってくれた。


「本当に一匹あたり大銅貨2枚でいいのかい? 自警団の買い取りと変わらないだろうに」


 恐らくおばさんが仕入れようとすれば、この値段では無理だろう。


「おばさんのみせ、やすいから」


 ミーナは大銅貨4枚を受け取ると笑顔を見せた。


「なあに、フォレストウルフの肉なんて固くて旨くもないよ……まあそれが良いっていう人もいるけどね。仕入れ値も安いし助かっちゃいるのさ。最近じゃ街の食糧事情も悪くなるばかりだからねえ」


 ミーナはおばさんに「いってくるね」と挨拶すると「ウサギの串焼き取っとくよ!」と後ろからおばさんの声が聞こえた。


 ミーナは振り返ると「もっとたくさん、かるね!」と大声で答えたのだった。


 途中で昨日、自警団への道を聞いた男の肉屋にもウサギ肉を1匹買い取って貰おうと立ち寄った。男は肉を受け取ると黙って大銅貨3枚を手渡してきた。


 「たかいよ?」


 高く買い取って貰って文句を言うのも奇妙な話だが、男は首を振ってミーナに受け取らせた。


「綺麗に解体してあるし、ここまで持ってきてくれるんだ。普通に仕入れてもそのくらいは必要だ」


 無愛想だが誠実な男のようだった。『ミーナ、お礼だけ言って受け取ろう』


 「ありがとう」


 ミーナがそう言ってその場を離れ自警団の方角に歩き出すと、「頑張ってくれよ! どんどん駆除してくれ!」


 男の声が後ろから響いたのだった。

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