第20話 難民街の路地裏で3

 三人を追跡してふよふよと飛んでいる私は、追跡相手が怪我を負っていてくれて助かったと思っていた。


 私の飛行速度はどんなに頑張っても大人が少し早歩きする程度しか出せないので、もし三人が急いで戻れば置いていかれただろう。


 三人が入っていった扉は他に窓ひとつない木造の建物で、細い裏路地の通りにそのドアがあり、合図を行うと中にいた別の仲間らしき男がドアを開け三人を中に招き入れた。


 小さな窓か穴でもあれば侵入して中の様子を探りたいところだったが、思ったより警戒レベルが高いようだ。


『ミーナ、自警団事務所に到着した?』


 出来ることがなくなった私は、距離があっても【心話】は可能なので、3人の子供達を連れて自警団事務所に向かったミーナの様子を確認する事にした。


『だんちょさんと、おはなししてる……さっきのわるいひとの、いるところしってるって』


 どうやら団長に報告していて、3人はアジトの場所も知ってるようだ。


『今、アジトらしき場所に居るんだけど、ここに来るつもり?』


 もし自警団がいずれは、こういった犯罪行為にも本気で対応する気があるなら、最低限アジトの位置くらいは把握しておきたいだろう。


『うん、みはりをするから、あんないするって……ふつかご、わるいことするみたい』


 つまり自警団は監視を付けるつもりのようだ。2日後に何かを計画していて、現場を押さえるつもりかもしれない。


『分かった、ここに来たら私も帰るから、ミーナは先に宿に戻っていて』


 恐らく子供の内のひとりと自警団員の誰かが、ここに来るのだろうと思われた。


 もし案内する場所がここと違っていたら、どうやってこの場所の事を伝えようかと思案しながらやることが無くなった私は、ひたすらこの場所で待つことにした。


 待ち人は思っていたより早く到着した。見知った女性だなと思いよく見ると自警団事務所にいたリサで、案内してきたらしい子供は短剣で大人達を牽制していた少年だった。


 二人はこちらにはやって来なかったが、扉の場所は確認したようだ。私はその事を確認すると、ミーナの待っているだろう宿に戻る事にしたのだった。


 監視役としてなら私は最適なのだが、知り得た情報を伝える術がミーナ経由しかないのが問題だった。


 ミーナが私の事を説明しようにも、周りが認識できないのではどうにもならない。


 どちらにしても建物の中を調べたり、会話を探る事が出来ないなら外から監視する自警団と大差ないので後の事は自警団に任せる事にしたのだった。


◻ ◼ ◻


 急いで宿に戻ったがミーナはまだ戻っていなかった。通りに出て見ると串焼きを焼いている店の側のゴザに座り込んだミーナが、買い込んだ2本の串焼きを両手に持って美味しそうに食べているのが見えた。


『ミーナ、お帰りなさい。宿に入る前にウサギ肉を渡すから』


 ミーナが食べ終わるのを見計らって、そう声をかけた私に気がついたミーナが嬉しそうに駆けてきた。


「ただいま、ビスタ。このうさぎにく、どうするの?」


 木の棒と細い縄、それと【分解】によって解体済みの肉を渡されたミーナは、器用に縄で棒に肉を括ると肩にかけた。


「忘れたの? 宿のおじさんが宿代三泊分で買い取るって今朝言ってたでしょ? だから宿代の代わりにするつもり」


 冗談だった可能性もあるが、買い取って貰えるなら自警団より割高なので助かるのだ。

 

「お帰りなさい……おお! ウサギ肉じゃないですか……自警団に⁉」


 子供のミーナがウサギ肉を持ち帰ったこと以上に、自警団の貴章を付け紋章入りのマントを装備している事に驚いたようだった。

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