第19話 難民街の路地裏で2
3人の男達が一斉に動き出した。私は既に子供達3人に【ウィンドシールド】を張っていたので、まずどいつに【ウィンドブレード】を放とうかと考えていたのだが――
私が行動に移すよりも早く、飛び込んできたミーナが【ウィンドブレード】で小男が振りかざしていた刃物を吹き飛ばし、木剣を近くの大柄な男の脚にたたきつけた。
私も反対側にいた男の顔に【ウインドブレード】を放ってやる。大男は大袈裟に鼻血を流してうずくまっている。
「痛え‼ なんだよこの猫娘わよ! 何処から来やがった!」
やったのは私だが私の事は認識できないらしくミーナにやられたと思っているようだ。
ミーナの追撃はそれだけでは済まなかった。小男の後ろに回り込み脚を払った後、頭に木剣叩きつけ、鼻血を流した男にも一撃をお見舞いする周到さだった。
「みんな、きて。じけいだんにいくよ!」
突然の状況の変転についていけてなかった3人の子供達が、ミーナに促され、慌ててミーナの後ろを付いていく。
『ミーナ、コイツらがどうするか確認してから戻るね』
【心話】でそう伝えると、ミーナから『うん』と短い反応と角を曲がる寸前に頷くのが見えた。
「くそっ、あのガキどもめ」
怒り狂った大男が、ミーナの一撃で苦しそうになんとか立ち上がって子供達を追いかけようとした。
「やめろ! あの猫娘はどうやら自警団員らしい、今奴等と揉めるのはさすがに不味い」
小男がそう告げると、大男が追うのを諦めたのかその場に座り込んだ。ミーナの一撃はかなり強烈だったのか、もうひとりの男は痛みに耐えているようで蹲ったまま動こうとしなかった。
「あんなガキが自警団員ですかい⁉」
座り込んだ大男が、驚いて叫んだ。小男はどうやら3人の中でもリーダー格のようだ。
「バカ野郎、背中のマントの紋章も見えてねえのか! あの動きで、魔法まで使いやがった。手加減されてたのも分からねえのか?……くそっ、あんな化け物とマトモにやれるかよ!」
かなり本気で木剣を振るっていたように見えたが、ミーナが手加減していたのは間違いない。
ミーナが狩りで使っている短剣を使っていればこの程度の怪我では済まないし、制限があるといってもミーナの放つ魔法なら本気で当てていれば小男の利き腕は吹き飛んでいたかもしれない。
「とにかくアジトに戻るぞ」
3人はなんとか立ち上がると、足を引きずりながらアジトがあると思われる場所に移動を始めたのだった。
◻ ◼ ◻
「闇取引か……やはり噂は本当だったんだな。だが君達はよく騙されずに逃げてこれたな?」
ミーナの案内で無事に自警団事務所に到着した子供達3人は、ミーナの口利きと証言もありジャン団長と直接、今までの経緯を説明している。
「はい、運が良かったのです。私達が彼等と接触しているのを偶然見かけた街の方に警告されたのです。その方も確証があるというわけではないようでしたが……それで従者としてここまで供をしてくれている、ヤンが密かに彼等を監視してくれて関わってはいけない相手だと分かったのですが……」
関わりを断とうとして失敗したのだろう、セナは残念そうな表情を見せた。
「それで何でそんな連中と接触する事になったんだ? まあ、ある程度は想像がつくがな」
子供の報告だけで自警団を動かす事になるかもしれない。団を預かる身として、疑問に思う点に関してはっきりさせておきたいのだろう。
「申し訳ありません。自己紹介が遅れました。私の名前はセナ、フォフナー騎士爵の娘です。そして妹のマナ……それから従者のヤンです」
そう言うと、セナはポーチからカードと書類のような物を取り出した。
「確認しても?」
団長がセナをチラリと見て、頷いたのを確認して書類を確認した。
「継承印入りの書類と家紋入りの身分証ですな……残念ながら私に真偽を確認するすべはありませんが信じましょう……なるほど都市に入って継承を行いたいと。ですが残念ながら……」
団長はそう言うと書類とカードをセナに返した。
「分かっています。準貴族……いえ雇われ貴族と呼ばれる騎士爵の血縁では都市が滅びた今、通行許可は下りないでしょうね……今さら継承を行っても自己満足に過ぎないとは分かってはいるのです」
各都市に所属し都市に雇われる形で貴族待遇を受ける騎士爵の事を、多少自虐的に雇われ貴族、準貴族と自分で呼ぶ者も多い。
騎士爵とは、準男爵以上の国から身分を下賜された純然たる貴族階級とは違い、都市の権限により与えられた身分に過ぎなかった。国から見れば正式な国法に則った身分ではあったが、臣下を経由した臣下に過ぎなかった。
「ええ、今の厳しい現状では通行許可までは下りないでしょうね。せめて準男爵であれば許可も下りたのでしょうが……だが金銭的な面はともかくとして騎士爵を継承できれば、何処でもそれなりの応対はされるでしょうし自己満足とは言えませんよ」
その応対にしても都市への通行許可が下りればこそなのだ。今の3人には慰めにもならない。
その場に少し居心地が悪いような微妙な雰囲気が漂った時、「あの、監視していた時に、奴等が二日後に騙した人達を引き渡すような事を言っているのを聞いたんです」
従者の少年、ヤンが恐らく微妙な雰囲気に堪えかねたのだろう、会話に割り込むようにそう告げたのだった。
ちなみにミーナはピクピクと耳を動かしながら会話に集中していたが、セナの妹のマナが自分の尻尾を触ろうとする行為から、回避するという重大な攻防を密かに繰り広げていたのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます