第18話 難民街の路地裏で1
「ミーナ、団長さんに貰った自警団の貴章を付けようよ」
建物の外に出たミーナに自警団事務所から出る前に団長から受け取った自警団の貴章を付けるように言った。
自警団に所属していると分かるようにしておけば、組織の後ろ楯がある事を示すことが出来ると思ったのだ。
この街での自警団の力は分からないが、侮られやすい子供のミーナへの箔付けとしては十分だろう。
だが自警団に敵対的な連中がいたりすると却って厄介ごとに巻き込まれる可能性もあるので痛し痒しな面もあるには違いなかった。
受け取った貴章はバッチのようなもので服に取り付けるようになっている……そして問題はもうひとつの方だった。
それは小さな旗のようなもので、気が向いたら服にでも縫いつけて目立つようにしてほしいと言われていたのだ。
これを渡した時の団長の目が若干泳いでいたのは、大人がこれを付ける事を想像して恥ずかしい事を押し付けているという意識があるのだろうと分析していた。
(私の感情表現データベースにある、あれは後ろめたい事がある時の表情だった)
だがミーナはその旗を貰って喜んでいて、少し目がキラキラしている。私の感情データベースが格好いいと思ってると告げていた……
旗を受け取り【収納】した私は、森で採集しておいた草布とウサギの皮、そして旗を素材にして【合成】し、小さなマントを作った。ゲームにあった低スキルでも作れる紋章入りのマントのお陰でそれっぽい物が作れたのだ。
「ビスタこれ、かっこいい!」
装備したミーナはマントをヒラヒラさせて喜んでいる。私は嬉しそうにしているミーナを見ながら満足していたが、そろそろこの場から離れようとミーナに告げようと口を開いたその時、とても小さな悲鳴のような物に気が付いたのだった。
◻ ◼ ◻
ヒラヒラと楽しんでいたミーナの耳がピクピクと動き、悲鳴が聞こえたと思われる方角をキッと見つめている。
「ミーナ、私が様子を見てくるからここにいて」
私がふよふよと飛び立とうとすると、私の体を掴み自分の頭に乗せたミーナが悲鳴のした方向に向け走り出した。
「ミーナ!」
私は非難めいた声をあげてはみたが、実のところ私の移動速度では緊急事態に間に合わない事を理解していた。
「何かあっても、まず様子を見ましょう。もし私達の手に負えないようだったらミーナが自警団に知らせて」
本当は先に自警団に知らせるべきかとも思ったのだが、ミーナは私が予想していたよりも強いという事を、手合わせの場にいる自警団員を【鑑定】して知ったのだった。
(あの場で、赤ネームなのは団長とリサさんと、あと二人ほどだった。あれだけの人数がいてほとんどが互角かそれ以下だと考えると、この世界の住民の実力が低いのか、【契約】してレベルが上がったミーナが強いのかどちらかでしょうね)
訓練を受けている新米のダンがそれほど弱いとは思えなかった。恐らく【契約】したミーナが強くなったと考えるのが妥当に思われた。
問題の場所は建物から、それほど離れていなかったようだ。曲がり角に隠れて様子を伺うミーナの向こうに、人相の悪い大人の男達と3人の子供の姿が見えた。
状況は良くなさそうだが戦闘になっていない事にホッとした私は、何が起こっているのか状況を確認しようと、ふよふよとその場に飛んでいった。
『ミーナ、何かあったら【ウィンドシールド】を張って【ウィンドブレード】で牽制してみるから、子供達に声を掛けて自警団事務所に誘導して』
私は接近しながら、3人の大人達を【鑑定】して幸いな事に赤ネームが居ないことを確認してホッとしていた。
だが、3人がミーナと互角の実力者の可能性もあるのだ油断は出来ない。
「おいガキ! 城壁を越えて都市ミザレに入れる方法があるってさっきから教えてやってる俺達の親切心が分からねえのかよ!」
3人の中でも一番小柄だが小狡そうな表情をした男が刃物をちらつかせながら子供達に迫っている。
左右にいる大柄な男達は威圧担当なのか何も言わず腕を組んで睨み付けているだけだったが、体格からいっても腕っぷしには自信があるようだ。
「黙りなさい! あなた方がそうやって人を騙して闇の奴隷商人に売り渡しているのは分かっているのです。もう我々につきまとうのはお辞めなさい!」
少年に守られる形で小さな杖を掲げ持っている。金髪碧眼のとても美しいといって良い十歳くらいの少女が、気丈な中にも上品さを失わない口調で反論した。その傍らには五歳ぐらいの良く似た小さな妹らしき子供が、震えながら姉妹なのだろう姉にしがみついている。
「なんだよ、ばれてたのかよ……せっかく穏便に済ませてやろうかと思ってたのによ……まあいいどうせ結果は同じだ」
刃物を振りかざして穏便などと、どの口が言うのかと聞いていたが最終的には実力行使に及ぶつもりらしい。
「セナお嬢様、先にお逃げ下さい。この先に自警団事務所があると聞きました。そこに行けばこいつらも諦めるでしょう」
短剣を持って牽制していた従者らしき格好をした少年が、少女に向かってそう言った。
「ちっ余計な事を! おいお前らさっさとやれ! くれぐれも傷だけは付けるなよ。俺は邪魔なそのガキをやる」
どうやら邪魔な少年を殺すつもりらしい、思っていた以上に危険な男のようだった。
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