第17話 自警団3

「ちょっ、ちょっと待って下さい。油断っすよ! 子供相手に本気なんて出せませんよ! もう一度、もう一回やらせて下さいよ。今度は本気でやりますから」


 一瞬で勝負がついた事に慌てたダンが、団長に食い下がり出した。


「お前、魔物相手にもその言い訳するつもりか? まあいい、相手もその気みたいだ。好きにしろ」


 団長に睨まれて一瞬怯んだダンだったが、ミーナが木剣で素振りをしているのを見て勢い込んで闘技場の開始位置に戻った。


「猫ちゃん、ダンの奴これでも初撃の突きだけは結構鋭いから注意して」


 観客の女性自警団員から声が上がった。


「リサの姉貴! どっちの味方なんすか⁉」


 周囲は自分の味方だと思っていたらしいダンが驚いて叫び、リサと呼ばれた女性を見た。


 彼女はさっき【鑑定】した時に赤ネームだったので、私も名前を把握していた。彼女の堂々とした雰囲気から女性ながら自警団ではかなりの実力者なのではないかと感じていた。


「なんだい? あんたが本気出すって言うから猫ちゃんに注意しただけじゃないか。まあ余計なお世話になりそうだけどね……とにかく、くっちゃべってないでさっさと始めな!」


 なかなかに威勢の良い姉御キャラな女性のようだ。背が高くスタイルも良くて肌の色が褐色の大人の美女というゲームのNPCだったら女性ユーザーのファンが付きそうな感じの格好の良いお姉さんだ。


「う、うっす。おい今度は本気で行くからな!」


 そう言うとさっきとは違って気合いの入った表情で、腰を落とした姿勢で棒を構えた。


「うおう」


 合図と同時に鋭い突きを真っ直ぐに放ってきたダンに対して、軽く跳び跳ねたミーナは両手で握った木剣で素早く棒を上から打ち落とすと、クルリと体を捻りその勢いのままダンの頭にピタリと木剣を当てた。


「くそっ」


 勝負は明らかについていたがダンは諦めようとせず、ミーナに向かって棒の連続突きを放っている。


 だがミーナはダンが放つ鋭いが直接的な突き技のスピードを見切っているのか、素早く避けたり木剣で払ったりしながらダンに軽い一撃をお見舞いしている。


「こんなはずじゃ……」


 意地になったダンが尚も攻撃を続けようとするのだが――


「いい加減にしねえか!」


 団長がダンの頭に協力な拳骨を一発落とすと、倒れたダンの襟首を掴み闘技場の外に放り投げた。


「嬢ちゃん名前は何て言うんだ?」


 振り向いた団長は厳つい顔に似合わない笑みを浮かべてそう尋ねてきた。


「ミーナだよ!」


 団長のその怖い笑顔に若干怯えながらも、ミーナは元気に答えた。


「そうか自警団にようこそ。ミーナこれからよろしくな」


 団長はニヤリと笑うとミーナの頭を撫でたのだった。


◻ ◼ ◻


 練兵所から戻ったミーナに、団長は自警団について説明してくれた。カウンター席に座ったミーナの前には大きな木のコップに入ったスープと黒いパンが二切れ置かれている。


 パンは硬いようだがスープに浸して食べるとそれなりに美味しく頂けるようだった。ミーナが嬉しそうに食べているので味もそれなりに良いようだ。


「自警団なら銅貨5枚で食えるぞ、まあ今回は迷惑かけたから奢りだ」


 安いのか高いのか分からないが、団長が自慢そうに言うところから恐らく団員の特典のようなものに違いない。


 難民街なのだから当然、食糧は貴重だろうと思われた。ウサギのような厄介な魔物が増えてくれば、尚のこと食糧の生産は困難になるだろうし、訪れる難民が増えれば人口も増え食糧は不足してくるだろう。


「ミーナのような子供に警備や巡回のような事をさせるつもりはねえ。見た目で舐められて余計に問題が起きそうだからな」


 なにやら入団前提のような団長の口振りだが、ミーナはさして関心なさそうにしていて、スープに夢中になっているようだ。


 ただ団長が話すたびに耳がピクピク動いているので、ちゃんと話は聞いているようだ。


「ウサギを狩れる腕があるなら、一匹につき大銅貨3枚で買い取ろう。その代わりこの団章を目立つ場所に付けてくれ。うちも戦える奴が不足していてな、ウサギまでは手が回らねえ。まあ臨時の団員みたいな扱いになるが手を貸してくれ」


 街での噂話と総合して考えると、自警団もウサギを放置していて街の住民から苦情が来ているのかもしれない。


 ミーナが自警団の団章を付けてウサギを吊るして歩けば、自警団がウサギを放置していないというアピールになるだろうという事のようだ。


 何だか利用されるみたいだが、あのウサギの面倒さを考えると、他にも色々やる事がありそうな自警団を一方的に非難する気にはなれなかった。 

 

「うん、わかった。うさぎもってくるね……かわと、にくだけでもいい?」


 ミーナが簡単にそう返事したので私は少し心配になりかけたが、きちんと交渉もしているところを見るとちゃんとミーナなりに考えているようだ。


「あ、ああ、かまわない。解体の手間が要らないのならこちらも助かる。皮だけでも銅貨3枚、肉もあるなら大銅貨2枚だ」


 やはり食糧は貴重らしく買い取りのほとんどが肉の値段のようだ。


『ミーナ、ポーチに皮を取り敢えず5枚ほど入れとくね』


 他にも加工して何か使い道があるかもしれないので、取り敢えず半分ほど換金する事にした。


「ほー、拡張ポーチか便利な物を持ってるな……それに他に5匹も狩ったのかやるじゃねえか。これからも頼むぜ」


 渡された皮を数えた団長がその数に驚いている。ミーナは1匹分の代金と皮5枚分の代金を受け取ると自警団事務所の建物を出た。


 出口にむかうミーナに他の団員達から「これからよろしくな」と声がかかった。


 入団の経緯はともかく、団員の雰囲気もそれほど悪くないようだ。


 私は臨時とはいえ自警団に所属し、ミーナが少しずつこの街での足場を固めているように感じて、嬉しく思ったのだった。

 

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