第16話 自警団2

 私は、自警団事務所をゲームにも登場した冒険者ギルドのような物と勝手に想像していたのだが、実際に入ってみるとそこは只の酒場兼食堂のような場所だった。


 奥にはカウンター席のような物があり、体格の良い頭の剥げた厳ついおじさんがこちらを厳しい目で見つめているのを確認した。


「おい! 聞こえねえのか! ここはガキの来るところじゃ……おい、そのフォレストラビットはどうした?」


 随分興奮した様子の若者が、ミーナの掲げているウサギにようやく気が付いたようでそう尋ねてきた。


 私はミーナが怯えているのではないかと様子を心配して見たが、思ったよりも落ち着いていて安心した。


(というか少し怒っている? さっき男性に声を掛けられた時は緊張していたのに)


「たおしたから、ここにもってきたの」


 いつもは気弱な雰囲気のミーナが、どういう心境の変化か少し自信ありげにそう答えた。


「おいおいどんな冗談だよ! 笑わせんなよ!」


 ミーナのその答えに、最初は無関心だったがフォレストラビットの名前が出た辺りから二人のやり取りを注目し始めた周囲の者達からも笑い声が上がった。


「たおしたもん」


 少し拗ねたように言うミーナだったが、小さな子供が自分の身長の半分もあるような狂暴なウサギを退治したと言っても、信じられないのは無理もない事だった。


「おいダン、ウサギとはいえ魔物を倒したって言うんだ、お前が実力を見てやれ。――裏庭の練兵所を使え」


 それまで黙ってカウンターの内側から成り行きを黙って見ていた、酒場の厳ついマスターらしき人物が突然そう言い出したのだった。


◻ ◼ ◻


 練兵所は建物の裏手にある柵に囲まれた広場だった。弓打ち用の的や人形の藁等の訓練施設になっているようだ。


 ミーナとダンと呼ばれた若者は、周囲に野次馬のように囲む自警団員達に囲まれて広場の中央に作られた闘技場のような場所に立っていた。


「ジャン団長、本当にこんなガキと手合わせするんですか? 俺っちは新米ですが訓練だって受けてますし、フォレストウルフの狩りにだって何度も参加してるんですよ? ――おい! ガキさっさと本当の事言って団長に謝れよ!」


 自警団の建物に入って早々に絡んではみたが、子供を手合わせにかこつけて痛め付けるような趣味はないようだ。


 子供と手合わせさせられるのが恥ずかしいのだろう、酒場のマスターだと思っていたが、実は自警団の団長だったらしいジャンというらしい男に必死に食い下がっていたが、無駄だと分かるとミーナに噛みついた。


「ミーナ、うそついてない」


 ミーナは意外にも強固にダンの言葉を突っぱねた。


『ミーナ本当に大丈夫? ダンって奴も嫌がってるみたいだし……ごめんなさいすれば手合わせする必要まではないと思うよ?』


 魔法で防御すれば大丈夫だと思うが、仮にも自警団員だ新米らしいが素人ではない。


『だいじょうぶ』


 ミーナは怖がる様子も見せずにそう【心話】で答えた。


(いつの間に男前な子になっちゃったの⁉)


 この世界の戦闘経験者の力量が分からないうちにまさかミーナが手合わせする事になるとは思っていなかった私は、少々焦っていた。


 ダンというか若者を【鑑定】してみたが、赤ネームではないので危険度は低いのかもしれない、因みに団長は赤ネームだった。


 実は私の【鑑定】は私との比較なのかミーナと私を含めての比較なのかはっきりしていないのだ。私はその場にいた自警団員を片っ端から【鑑定】して赤ネームの者を覚える事にした。


 ミーナが成長して覚えた者のうち誰かが白ネームに戻れば【鑑定】の比較基準が分かるだろうと考えたのだ。


「後悔するなよ、警告はしたからな。後から痛いだの何だの文句言うなよ! 先手は譲ってやる。かかってきな!」

 

 ダンは棒の先に布のような物を巻き付けた槍の訓練に用いる長い棒を持って構えている。


 見たところ訓練を積んでいるというのは本当らしい、なかなか構えが様になっている。


「審判は俺がやろう」


 団長が進み出て審判を買って出た。こんな子供相手に手合わせしろというこの男が一体何を考えているのか表情からは全く分からなかった。


 ミーナは私が作った木剣を構えている。ショートソードくらいのサイズしかない木剣も小柄なミーナ持っていると普通の剣のように見えた。


 もし力量が互角であればリーチの差でミーナが不利なのは明らかだったが、先手を取れるのなら勝機はあるだろう。


『ミーナ、【ウィンドシールド】を』


 私は、ミーナが防御魔法を掛けていないのに気がつき【心話】で伝えた。


『だいじょうぶ』


「始め!」


 団長の合図で素早く動いたミーナは、魔物との狩りのようにダンの側面を取るように動き、側面から素早く接近すると木剣でダンの脚を払い体勢を崩すとダンの首筋に木剣を寸止めした。


「それまで!」


 ダンの油断もあったのだろうが、勝負は驚くほど呆気なく一瞬でついてしまったのだった。

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