第12話 難民街3

 部屋に戻ってきた私を迎えたのは、眠そうに目を擦りながら目を覚ましたミーナの姿だった。


「ビスタどこいってたの?」


 小さく欠伸をしたミーナが、もそもそしながら尋ねてきた。


「空から街の様子を見てきて、あとは街の人の会話を聞いてまわってたの」


 私はそう言いながら、ステータスメニューのアイテム欄からミーナの朝食を作ろうとしていた。


「解体したウサギ肉をさらに【分解】してと、水とキノコと薬味の野草を【合成】と。小麦でもあれば良かったんだけどね……よし完成」


 完成した煮物をお椀に入れてミーナに渡し、入手した木材の端材で木製のスプーンを【合成】して渡した。


 ゲームにあった専門職のスキルであればもっと色々な物を作れるし、スプーンひとつでも様々な選択肢がある。オーソドックスで基本的な物なら初期スキルでも一通りの物は製作可能なのだ。


 私は美味しそうに耳をヒクヒクさせ朝食を食べているミーナを眺めながら、この世界の冒険者達について昨日、馬車でラロから聞いた話を思い出していた。


 主に亡くなった相棒のカロンとの冒険者としての生活の話が主だったが、二人は私が思っているよりは、ベテランの冒険者だったようだ。


 だが私が気になったのは、二人が長年の冒険者生活でかなりの数の魔物を退治してきているという事実だった。


 話を聞いて私はある仮定を立てた。


 ――もしかしてこの世界の人間は簡単には成長しないのではないかと。


 もし私が普通の人間であれば、この世界の人間も魔物と戦えば経験値を得てレベルが上がると思い込んだりはしなかったかもしれない。


「私はそういう点では、よくユーザー達の会話に出てきた例えではなく本物のゲーム脳的思考のみ存在なんですね」


 現実という物を知らない私はすべてにおいてゲームを物差しにしてしか判断ができないのだ。


 この世界でもステータスメニューなどのゲーム要素が使えてしまい、世界観もゲームと似ている面が多いために起こった思い込みだった。


「でも、もしこの世界がレベルアップ等の無い世界だとすれば、その状況で魔物等という存在と戦わなければならないなんて……どれだけハードモードなシステムを採用しているんでしょうか……」


 相変わらずゲーム脳的思考な私だった。


(人間でいうところの職業病といったところでしょうか?)


「なに~ どうしたの?」


 ぶつぶつと独り言を言っている私を、朝食を食べ終わったミーナが心配そうに見ている。


「なんでもありませんよ……今日は街の近くの草原か森でウサギを狩ろうかと思っているんですけどミーナは構いませんか?」


 私が考えていた事をミーナに話してもかまわなかったが、この世界の者であるミーナには理解されないだろうと思い、別の話で誤魔化した。


「うさぎ?……あぶなくない?」


 やはりミーナもウサギは危険だと知っているようだった。


「私はウサギとは相性が良いんですよ。ミーナが食べている焼き肉も私が狩ったホーンラビットですから」


 私の言葉に暫く考えている風のミーナだったが――


「うん! わかった! ミーナもがんばる」


 私が示した実績に納得したのだろう。ミーナはそう言うと大きく頷いたのだった。


◻ ◼ ◻


 宿屋のおじさんにウサギ肉の売る場所を確認すると、そこらの肉を売っている店なら喜んで買い取ってくれるらしいが、解体の手間賃を取られるらしい。


 だから自警団事務所に持っていくのがお薦めだと教えて貰った。何故そんな事を聞くのかと尋ねてきたので、狩にいくからと答えたら大いに驚かれた。


「狩れたら、持ってきてくださいよ。宿屋代三泊分で引き取りますよ。お気をつけて」


 おじさんは恐らく冗談半分でそう言ったのだろう、愉しそうな表情でミーナを送り出してくれた。


 あからさまに馬鹿にした表情でないのは、おじさんの人柄なのだろうか。


「いってきます!」


 素直なミーナはおじさんに期待されていると思っているのか、嬉しそうに手を振っている。

 

 おじさんが何処まで本気で言ったのか分からないが、意外とお得な値段を提示したのではないかと思った。


 買い取りされたお肉をもしおじさんが買おうとすれば、当然ながら肉屋の儲けなり、串焼き屋の儲けなりを上乗せされた値段になるだろう。


(そう考えると仮に大銅貨二枚が相場の買い取り値だとすれば……)


「おじさんに売るのも悪くないかもしれない」


 思わず考えが声に出てしまった私に「なに~」とミーナが尋ねてきた。



『なんでもないよ、ミーナ行こう、沢山狩っておじさんを驚かせよう』


『うん!』


 飲み込みの早いミーナは【心話】にはキチンと【心話】で返してくれる。


 私達はまだ人通りまばらな、中央通りを森に向かって走り出したのだった。

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