第11話 難民街2
翌朝、早くから目を覚ましたが、ミーナはまだぐっすりと眠っているようだ。
ミーナがどのような人生を送っていたのか分からないが、荷物ひとつ持たずに行き倒れるような状態だったのだ、ここまでの道程は平坦なものではなかっただろう。
「自分で起きるまで寝かせておきましょう」
時間的にも夜が明けたばかりなので、慌てる必要もなかったし宿も二泊借りているのでミーナがゆっくりするのを妨げる要素もなかった。
私は天井付近に空いた丸穴から、部屋の外に飛び出したのだった。
◻ ◼ ◻
丸穴から外に飛び出した私は、ふよふよと上空に舞い上がった。
昨日は流されるように難民街に入って幸い泊まる場所もすぐに見つかったが、この街がどのような構造になっているのか全く分かっていなかった。
空から街を見下ろすと、既に人々が動き出しているようだ。
灯りの燃料費を気にするような暮らし向きの人々は、朝早くに起き、夜は早くに就寝するのが合理的な生活リズムだろうと思われた。
この世界の照明等の事情はまだ分からないが、魔石を使った魔道具のような物が売っていたようなので思っているより文明レベルは高いのかもしれない。
「お金になりそうな物を見つけるのも大切だけど、まずミーナをもう少し育成しないと……ついでに狩った獲物が宿代になるのが理想なんだけど」
どこに落ち着くにしてもミーナには自力で窮地を切り抜けられる実力を付けて貰いたかった。
「戦闘面では私があてにならないのが残念ね。前回の戦闘では襲ってきたのが一匹だったので助かったけど、何時もあんなに都合良くはいかないでしょうね」
独り言を呟きながら、周囲を見渡すと整然としているのは中央通りの周辺だけで、少し道を外れれば道が入り組んでいて慣れなければ確実に迷ってしまいそうだ。
街は密集しているのと思った以上に広いので住んでいる人口も相当になりそうだった。
「あら、中央通りのをそのまま真っ直ぐ進むと、街の終わりからすぐに森と草原が広がってるのね……あそこなら街に近いから手頃な魔物もいるかも」
森と草原の探索はミーナが起きてから行う事に決め、私は街に暮らす人々の会話に耳を傾けるべく人々が集まりそうな場所にふよふよ向かったのだった。
◻ ◼ ◻
人にも認識されないというのは、相手と会話できない不便さはあるが情報収集という面では非常に便利だった。
宿屋のおじさんも、ミーナの頭の上に乗っているのを気がついた様子はなかった。それは街の他の人々も同じらしい。
私は気付かれないのを良いことにかなり大胆に会話する人々に接近していた。
「まったく、近頃は魔物が増えすぎて嫌になるぜ」
今は二人の男性の会話に耳を傾けている。
「ああ、畑の被害も馬鹿にならねえよ、あのウサギなんとかならねえもんかね」
「ここらも流れて来る人間の数ばかり増えて、魔物と戦えるような連中は街で冒険者になっちまう。奴等は討伐報酬の出るような狼狩りやゴブリンやオークみたいな人を襲う奴等しか相手にしねえしな……まあ壁のない場所に住んでいる俺達からすれば退治してくれるのは、有り難い事なんだけどよ」
「それなら自警団連中に頼んでみるってのはどうなんだ?」
「あいつらは街から離れられねえだろ、それに装備も貧弱だし街に籠って侵入してくる魔物を追い返すのが精々だぜ」
「ウサギの野郎は人は襲わねえが、見つけるのも難しいし人を見るとすぐに逃げやがるからな。そのくせ攻撃されると強烈な突進をかけて来やがるから、下手に手を出して怪我する奴も多いらしい。それに苦労して退治しても大銅貨二枚程度しかならねえから誰も好き好んでやらねえよ」
「害獣指定される筈だな、食べると結構旨いんだけどな」
「はは、そうだな」
この二人の会話はとても有用だった。ウサギと言えば私が転生した森で唯一狩ることが出来た魔物だった。
「思っていたより、厄介な魔物だったんだ。私の場合、警戒されないし不意討ちの魔法で倒せるから相性の問題みたいね。大銅貨二枚か……どこで買い取って貰えるんだろう……」
会話を盗み聞きできるのはとても便利だったが、質問ができないというのが欠点だった。
「宿屋のおじさんにでもミーナに聞いて貰うかな」
私は会話していた二人が立ち去るのをなんとなく見送ると、ミーナのいる宿屋に戻ったのだった。
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