第10話 難民街1
遠方に都市ミザレを囲む防壁が見えてきた。高さは4メートルくらいはあるだろうか、この位置からだと防壁と高台の上に立つ領主が住んでそうなお城のような建物しか見えなかった。
歩き続けると街道は真っ直ぐに防壁に開いた巨大な門に繋がっていて、道は途中から整備された石畳の道に代わっていた。街道は私達が歩いてきた物だけでなく複数の街道が合流して門に至るようだ。
「大きいね! だけど、ちょっとこわいよ」
ミーナがその姿を見て巨大さに思わず立ち竦んでいる。
私達の通ってきた街道は閑散としていてすれ違う馬車など全くなかったのだが、他の街道は思ったよりも荷馬車などが往復していくようだ。
門の前を見ると馬車や徒歩の旅人らしき人々が、列を作って並んでいる姿が多数見られた。
「ミーナ、今日はとにかく時間も遅いし様子を見よう。あそこが難民街みたいだしとにかく行ってみようか」
それは美しい石畳の門前広場からかなり外れた場所に、防壁に寄り添うように存在する街といっても良い場所だった。
みすぼらし木造の建物や布地で屋根を張ってイグサのような茶色い敷物に座り商いを行っているような者達も複数見受けられた。
難民街と聞いていたのでもっと無秩序な場所をイメージしていたが、中央通りのような場所の両脇に布張りの店が多数並んで軒を連ねていて、雑多ではあるが意外にも整然として活気がある。
その殆どが露店で、焼き物や煮物、木工の生活用品や武器防具を売る店など、それほど高級な物は扱っていないようだが品揃えは思ったより豊富なようだ。
「すごい、いっぱいあるね」
その活気がある光景を見てミーナがはしゃいだような声をあげた。
「ミーナ、はしゃぐと人にぶつかるよ!」
端から見ていると危なっかしいが、ミーナは思ったよりすばしっこく狭い人混みを器用にすり抜けて行く。
「ミーナ待って! あれ! あの建物は宿屋みたい」
不思議な事に宿という文字が認識できた、ミーナと話せている事から今さらと言えたが、転生で様々な私の情報データベースが、この世界に最適化されたと考えるしかなかった。
(この世界の様々な物を【鑑定】出来ている時点で、私の中にこの世界の情報がインプットされているに違いないよね)
「ビスタ、おとまり大銅貨いちまいだって」
宿の壁に書かれた文字を多少たどたどしい感じでミーナは読んでくれた。私は、少しホッとしていた。文字を読めるという事は名前くらいは書けるのかもしれない。
串焼きらしき物が1本銅貨一枚で売られていた。店先の品物を見た限り日本の百円程度の価値かもしれない。
大銅貨を【鑑定】すると銅貨十枚と交換可能と記述されていて、大銅貨十枚で銀貨一枚に交換できるらしい。
(この世界の宿屋の相場は分からないけど、一泊千円と考えると安いのかな? まあどちらにしても金策を考えないとね)
「ミーナ、ポーチに大銅貨2枚入れたから、おとまり2日分ね」
私はラロに貰ったアイテム欄に硬貨毎に分類されて【収納】されていた中から大銅貨を選び、ミーナのポーチに移した。
受付には恰幅良いおじさん座っていて、子供が入ってきた事に驚いているようだ。
「お嬢ちゃん、何か御用かな? ひとりかな?」
問答無用で出ていけと言わない辺り、見た目どうり親切な人なのかもしれない。
「うん、ひとりだよ……あの……おとまり、おねがいします」
ミーナはそう言うと大銅貨を二枚、手のひらに載せておじさんに見せた。
「ようこそ、二泊でいいのかな?」
ミーナはコクリと頷くと大銅貨をおじさんに渡した。
「この番号板のお部屋だよ。入ったら内側からこの番号板で閂しておくれ。夜は用心が悪いからね」
番号板を受け取って奥の部屋に入ると、全面が木の廊下になっていて狭い部屋に5つの細い扉が隙間なくずらりと並んでいた。
番号板は5番だったので一番奥の部屋らしい。
ミーナが扉を開けて中を覗き込むと、この宿が安いと思われる理由が分かった。
部屋のサイズは扉の幅程度しかなく大柄の大人が辛うじて眠れるくらいの広さしかなかったのだ。
天井付近に灯り取り用の小さな穴が空いているだけで、窓もない有り様だった。日が暮れれば部屋の中は真っ暗になってしまうだろう。
「ミーナ、おじさんが言ってたように、その番号板で閂してちょうだい。私は部屋を少し掃除するから」
私は少し湿ったような異臭する部屋を【浄化】してまわった。そしてアイテム欄から、狼の皮を何枚か取りだし部屋に敷き詰めた。
「わー、きもちいい」
【浄化】されてふんわりと肌触りが良くなった狼の皮に、素早く木剣や靴を脱いだミーナが飛び込んできた。
暫くそうしてはしゃいでいたミーナだったが、部屋に入って安心したのだろうかすぐに眠ってしまった。
私はミーナを【浄化】して綺麗にすると、狼の皮を何枚か取りだしミーナの上に掛け毛布がわりに重ね掛けした。
私は天井付近の穴から外を覗き、外には建物があるだけなのを確認して特に危険もなさそうなのでミーナと共に眠りについたのだった。
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