第9話 都市へ2

「命を助けて貰っておきながらすまんな……俺も都市に家族がいる。せっかく拾った命だ無駄にはしたくない。それからカロンの遺品で悪いがこれをやる」


 そう言ってラロが差し出してきたのは、短剣とポーチだった。


「子供のお前に使えそうなのはそのくらいだ。ポーチは拡張魔法がかかっているので見た目よりは物が入る……中に通行税とギルドの登録費を払っても数日は宿で過ごせるくらいのお金が入っている……奴は独り身だったから、お前に使って貰えば本望だろう」


 そう言うと、自分の着ていた古びたハーフコートの外套を脱ぎミーナに着せた。


 ミーナが着るとすっぽりと体全体を包んでロングコートのように見え小さな冒険者に見えなくもなかった。


「コートは通行証を使うときに着るんだな。普段はポーチにしまっておきなさい……ここでお別れだ。助けてくれて感謝する。難民街で暮らすなら都市住民と下手に知り合いがいる事を知られないほうが変なのに目をつけられないで安全だからな。あそこに行けば俺の言う事が少しは分かるだろう」


 そう言うと馬車に乗り込み、もう振り向く事なく行ってしまった。


「ありがとう、ラロさん!」


 客観的に見れば命の恩人の子供を幾らかのお金を渡して、厄介払いしたようにしか見えなかったが、ミーナは気にしている様子はなかった。


 ミーナにとっては命を助けた相手であったが、命の恩人でもあるのだろう。


 そう考えると、彼は自分の出来る限りのお礼をして去っていったのだと私も考える事にしたのだった。

 

◻ ◼ ◻


 ポツンとひとり取り残されたミーナが街に向かって歩きだそうとするのを止めて、この場で食事にすることにした。


 ウサギ肉を焼いた物をそのまま出してもミーナは喜んでくれそうだったが、香辛料になりそうな野草を【分解】して肉と【合成】を行う。


「ビスタ! おいしいねこれ!」


 お椀に載せられた焼きたてのウサギ肉を頬張りながら、ミーナは幸せそうな声をあげた。


 私はそんなミーナの様子を見ながらも、ラロから受け取った品を全て【収納】した。コートもミーナが着たままだったが【収納】で回収した。


 ラロから色々と注意を受けていたが、ミーナは言われた事の事情を本当の意味では理解できていないかもしれないからだった。


 現に、ラロが去ってからコートを着たまま街に向かおうとしていたのだから……


 短剣も子供が持つ護身用としては危険な気がしたのだ。


 アイテム欄を眺めた私は、木の牢屋を【分解】した。すると結構な量の木材と鉄板を回収する事が出来た。


 木材とウサギの皮を使い、【合成】して木剣を作り、狼の皮と鉄を少し使い留め金付きの腰巻きベルトと簡易ベストを作った。


 簡易ベストはゲームでの初級装備品で、初期装備の布の服よりましという程度の物だが、要所に鉄の板が埋め込まれていて見た目は地味だが、防御力は意外と高いのだ。


「はい、これ装備して。ラロさんに貰った物は暫く私が預かるからね」


 ポーチはベルトに上手く付けれたので渡すことにした。見た目が地味な物なので問題はなさそうに思えたからだ。


 短剣はポーチの中に【収納】した。緊急で必要になる可能性が無いとは言えなかったからだ。お金は私が預かった。必要な分だけ取り出してポーチに入れておけば良いからだった。


「うん、わかったよ!」


 お椀に入れた水を美味しそうに飲み干して、ミーナは渡した物を楽しそうに装備した。色々と取り上げた形になったので、不満の1つも言い出すかと思ったが、装備した物をチラチラと眺めて満足そうだった。


「ミーナそろそろ出発しようね」


 そのままにしておいたら、ずっとチラチラしてそうなので私はミーナの頭をぺしぺしと叩き、出発を促した。


「ビスタ行くから、わかったよう」


 ミーナは耳をピコピコと動かしながら走り出した。私達は二人にとって、初めての都市であるミザレに向かったのだった。

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