第8話 都市へ1

 街まではそれほど距離はないようだが、今がお昼で夕方には到着出来そうという事なので、約3~4時間ぐらいは暇がありそうだった。


 暇だったので【心話】でミーナと話していたのだが、まだ子供のミーナは世界の事をあまり知らないようだった。


 近くの集落で家族と暮らしていたようだが、【心話】からあまり話したくない雰囲気が伝わってきたので深くは聞かない事にした。


 ただ、ミーナが【剣術】の特技を持っていたので、その事について尋ねると『お父さんに教えて貰ったの……たくさんの魔物と戦うと強くなれるからって』と教えてくれた。


(やはりこの世界の人間は魔物と戦うと強くなれるようね……だとするとミーナのNEXT経験値が魔石なのは私との【契約】が理由なんだろうな)


 正直なところ、この変化が良いことなのか判断が出来なかった。


「まったく、近頃は魔物がどんどん増えてこの先どうなることやら……奴等の進行が始まってからは更に増えて……強くなってきてるようだ」


 黙って馬車を駆っていたラロが突然そう言い出した。


「やつら?」


 ミーナが不思議そうにそう尋ねた。私が知りたかった奴等の情報が突然出てきて、偶然だろうが私の意を汲んだようにそう問いかけてくれたミーナの頭を撫でながらラロの返答を待った。


「ああ、奴等さ……数年前に北の不毛の大地に突如現れて国を建立し、この国ファーラン王国に攻め込んで来た……魔族と呼ばれる奴等の事だ」


 どうやらこの世界にも、マーシャルS.E.N.S.オンラインと同じような魔族という存在がいるらしい。


 ゲームの魔族は、比較的人間に近い容姿をしていて数は少ないが魔物を使役して人間に敵対する存在だった。


「幸い、召喚の儀によって降臨された勇者タカギ様を狙ってやって来た魔族を勇者様が撃退された事で勢いがついた王国の反攻で、一旦は退ける事に成功したんだが……勇者様が仰るには王国の荒廃の原因は魔族によって振り撒かれた魔素が原因らしい」


 勇者というのは恐らく謎の二人が言っていた、彼の事だろう。名前から日本人だろうと思われた。


 彼はなかなか優秀なようで、恐らくあの謎の二人が強い力を与えたに違いなかった。


(それに荒廃の原因まで解明する事が出来るって事は、戦闘以外にも何かの特技を持っているようね)


 ミーナは途中から疲れてしまったのかウトウトと居眠りを始めてしまった。


 ラロは暇だったのだろう、ミーナが眠ってしまったのに気がつかず色々と話してくれた。


 ただ細かな心の機敏など理解出来ない元AIでしかない私にもデータから彼の心情は理解できた。長年の付き合いの相棒を失って、黙って馬車を駈るのが辛かったのだろう。


 彼はその後も、とりとめない冒険者としての話を続けたのだった。


◻ ◼ ◻


「ミーナ起きなさい、もうすぐ都市ミザレが見えてくる。その前に準備がしたい」


 色々話して時間が経過した事で、ラロの表情は落ち着いたように見えた。


「これは今回俺達が依頼を受けた時に発行して貰った通行証だ。本来、犯罪奴隷達を通過させる為の一時的なものだが……もう奴等には必要ないものだ。お前にやろう」


 そう言って一枚の書類をミーナに手渡してきた。


「もし都市の検問を通過するつもりならその時に渡せ。期限は特にない。都市に来た理由は……そうだな冒険者の判定を受けるように言われたとでも言うんだな。だが一つ言っておくと上手くいく保証までは出来ない。使うかどうかは自分で決めてくれ」


 渡しておきながら随分と、曖昧な話だと私は思ったが、ミーナはあまりよく分かっていないようだった。


 だが私にはなんとなく理由が推測できた。これを使うのは一種の賭けに近い危険な行為なのだろうと思った。


(恐らく難民の増加で都市としては、検問を厳しくせざるを得ないのでしょうね……書類は本物だけど、本来の目的以外で使うのだからバレれば重い罰を課せられる可能性があるわね……)


 不思議そうに書類を眺めているミーナの姿を見ながら、使うかどうか慎重に見極める必要があると考えたのだった。

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