第7話 救助

 置き去りにされたとはいえミーナにとっては命の恩人と言える存在だったから、私もできれば助けてあげたいという気持ちはあった。


 私はシステムメニューを開くと初級ポーションを作ろうと考えた。


「水を【浄化】して薬草を【分解】と、よし【合成】して、容器は……すぐに使用するから……お椀でいいか」


 完成したお椀入りの初級ポーションをミーナに受け取らせて、ラロの全身に【浄化】をかけた後、ポーションを傷口に直接かけさせた。


 思った以上の効果があり、みるみる傷口が塞がっていく。何ヵ所も酷い傷があったが上手く急所を避けていたようで、そのお蔭で生き長らえたようだった。


「ミーナ、残りをなんとかして飲ませてあげて」


 私は力がないのでこういう作業はミーナに任せるしかなかった。


「うん」


 ミーナは力強く頷くと、ラロの頭を膝に載せて少しずつポーションを飲ませていく。


 ラロは全身の痛みがおさまったのか、呼吸がかなり静かになり意識もあるようだった。


「お前……ミーナか……助けてくれたのか……置き去りにしてすまない」


 ポーションを飲み終わったラロはそれだけ言うと、静かな呼吸で眠りについたのだった。


◻ ◼ ◻


 眠っているラロと様子を見ているミーナを置いて、私は凄惨な現場に戻っていた。


 このまま放置しておくのも良くないので片っ端から【収納】していった。どうやら死体は元のゲームと同じで【収納】可能なようだった。フォレストウルフは10匹も居たのでこの惨状も無理はなかったかもしれない。


 幸い馬二頭は無事なようで、荷馬車が横転しているように見えたのは木の牢屋の部分が倒れて壊れていただけみたいだった。


「馬はのんびりと草を食んでるみたいだし、周囲には危険は無いのかもしれないわね」


 私は木の牢屋を【収納】すると、邪魔にならない街道の脇に捨てた。


 とにかく凄惨な状況をなんとかすると、二人の元に戻ったのだった。


◻ ◼ ◻


 ラロはほどなくして目を覚ました。一瞬状況が理解できない様子だったが、ミーナに助けられた事を思い出したようだった。


 ポーションの効果なのかラロは予想していたより回復していて、なんとか立ち上がると現場に向かおうとした。


 ミーナがそれを無茶だと引き止めている間に私は、ふよふよと先回りして街道の脇に死体をもう一度取り出して並べた。その際【浄化】をかけて少しでも腐臭を取り除いておいた。


 ミーナを連れて現場にやって来たラロは思っていたより整然としている現場に驚いたようだが、賢明にもなにも言わずにカロンの遺体に近より、遺品を回収するとちょうど、窪地になっている場所に埋めた。


「馬は無事のようだ。とにかく街に戻ろう。ここからならそれほど時間もかからない」それだけ言うとミーナと一緒に馬車に向かった。


 フォレストウルフは放置するようなので、私は気付かれないように【収納】で回収して、牢屋もついでに回収した。


 私が何かしているのに気がついて待ってくれているミーナに合流したのだった。


◻ ◼ ◻


「お前は不思議な力を持っているようだな……もし戦う力があるなら街で冒険者になるのも良いかもしれない」


 馬車を走らせ始めたラロがそう言うと暫く黙り込んだ。そして、何も言わないミーナの返事を待たずまた話し始めた。


「何も言いたくないならそれでいい。助けられた俺が言うのも何だが……不思議な力はあまり人には見せない方がいい」


 ラロはそう言ったきり街に続く街道を、黙って馬車を走らせたのだった。

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