第6話 絆
とにかくこの場を離れる事にして街道沿いを歩く事になった。私はミーナの頭の上に座り込んでいるだけだったが……
「ミーナ、あそこに上手く隠れられそうな岩があるから少し休憩しましょう」
昨晩食べた煮物ぐらいでは歩いて旅をするには明らかに不足だった。
ちょうどミーナなら隠れられそうな小さな岩が、街道沿いに見えてきたので休憩がてら食事をする事になった。
(お椀を持ってきてよかったな)
手頃な木材でも拾えれば、【分解】と【合成】を組み合わせれば簡単な物なら何か作れそうだったが、森にいる間は食事の必要もない私にその考えが無かったのだ。
(木の水筒とか作れたかな? でも保存性は【収納】の方が良いからな)
お椀に以前試しに調味料無しで焼いたウサギ肉を乗せるとミーナの前に【収納】から取り出した。
「焼いただけだからあまり美味しくないだろうけど、食べてみて。熱いから気をつけてね」
ミーナは肉を見ると、両耳をピクピク動かしながら「おいしいね、おいしいね」と言いながら夢中で食べ始めた。
【収納】から取り出した焼き肉は、まるで焼き立てのような湯気を上げている。かなりの大きさの丸焼きだったが、余程お腹が空いていたのだろう見る間に焼き肉は姿を消してしまった。
私はお椀を【浄化】して、お水を注いだ。
「もう少し休憩したら明るい間に無理してでも移動しましょう」
お椀から美味しそうに水を飲んでいるミーナが頷き返した。
暗い夜道の移動は危険なので日中しか移動は出来ない。街まで歩きでどれだけ掛かるか分からないので、少しでも距離を稼ぎたかった。
それでもあの遅い馬車であと少しだと二人が会話していたのを思い出し、歩きでも頑張れば夜には街に到着出来るかもしれないと思い、その事をミーナにも告げた。
「がんばるね」
お腹がいっぱいになって元気がでたのだろう休憩前とは別人のように張り切って歩き出した。
行き倒れるような苦労をしたにも係わらず、ミーナは素直な良い子だった。
「この子には私が必要なんだ」
前の世界で必要とされなくなってサービス終了という名の死を迎えた私だったが、ミーナのお世話を焼いているうちに必要とされる喜びのようなものを感じた。
私は小さな手でミーナの頭をトントンと叩いた。
「痛いよビスタなに~」
文句を言いながらもミーナの声は、少し嬉しそうだった。
いずれ大きく成長して必要とされなくなる時が来るかもしれないが、それまで見守っていたい。そんな小さな想いが私のなかにいつの間にか芽生えているのを感じていたのだった。
◻ ◼ ◻
ある程度予想していた事だったが、二人の馬車はフォレストウルフの群れから逃げ切れなかったようだった。
遠くに横転した馬車が見えた。そしてフォレストウルフの死体と人間の死体が散乱している。
死体の一つに見覚えがあった。確かカロンという名前の冒険者だった。後の四人は枷を付けられた状態で死んでいるので例の犯罪奴隷達だろう。
録に抵抗も出来ずに殺された事が周囲の状況から想像出来た。盗賊とはいえ哀れな末路と言えたが、【鑑定】した時の説明欄の犯罪履歴の記述から同情する気にはなれなかった。
「う~ん」
遠くの茂みから呻き声のような物が聞こえた。
あまりの惨状にボーッとしているミーナに「向こうの茂みから声がする。行こう!」と声をかけた。
「う、うん」
声の主が誰かは想像はついたが、ミーナをこの惨状の場から引き離すきっかけにはなった。
「ラロさん!」
ミーナが叫ぶと走り出した。
予想通り、そこには怪我をして動けなくなったラロが倒れていたのだった。
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