第5話 襲撃

【鑑定】した狼はフォレストウルフという森で見かけたファングウルフよりも小型な狼だった。


「だからといって、私より弱いという訳ではないようね」


 赤ネームで表示された名前から格上なのは間違いないようだ。どの程度格上なのかレベルの表示がないので見た目で判断するしかなさそうだった。


 ミーナと【契約】した事で、もうひとつ出来るようになった事があった。


『ミーナ、今から魔法を使うからよく見ていて。同じ魔法をあなたも使えるから』


 心に念じる事で声に出さなくても会話が出来るようになったのだ。ミーナを見ると驚いた表情でコクリと頷いている。


 ミーナが思ったより落ちついている事に安心した私は、意識を狼に集中した。


「【ウィンドシールド】」


 様子を伺っていた、フォレストウルフがひと声唸ると突然、飛びかかってきた。子供なので楽勝だと判断したのだろう、警戒心のない相手を舐めきったような突進だった。


「ギャウン」


 予期せぬ風のシールドの風圧に阻まれて、間抜けな鳴き声をあげるフォレストウルフに私は畳み掛けるように――


「【ウィンドブレード】」


 フォレストウルフの頭に、風の刃を叩きつけた。だがやはり格上だからだろう、ホーンラビットのように一撃で倒すどころか、傷を負わせるのがやっとだった。


 だが今の一撃で明らかにこちらを警戒したのだろう、不用意に襲って来なくなり、唸り声をあげながら遠巻きにこちらの様子を伺いだした。


『ミーナ、力を貸して! 私だけでは倒せそうにない』


 私が後ろにいるミーナの方を振り返ると、力強く頷いたミーナが――


「【ウィンドシールド】」


 突然風の防御魔法を唱えると同時に、フォレストウルフに向かって素早く走り出した。


 私は慌てて牽制用の【ウィンドブレード】を放ち、フォレストウルフの注意を引き付けた。


 ミーナは、素早くフォレストウルフの側面のすぐ近くに回り込むと、力強く「【ウィンドブレード】」と唱えた。


 ほぼ至近距離から放たれた風の刃によって、フォレストウルフの首は呆気なく切り落とされたのだった。


 「家族……まもれた」


 その場に座り込んだミーナが、ポツリとそう呟くと緊張の糸が切れたようにその場に倒れ込んだのだった。


◻ ◼ ◻


 私は周囲を確認して、襲ってきたのが一匹だけだった事に感謝した。ミーナはやはり、魔法を一回しか使えないのだ。


 再度【鑑定】した結果【ウィンドブレード】と【ウィンドシールド】の横の数値が0/1になっていたのだ。


「【収納】」


 ミーナが倒したフォレストウルフを【収納】し、ついでにお椀も【収納】しておいた。


 暫くするとミーナも目を覚まし周囲を見回して、フォレストウルフの死体が無くなっている事を不思議そうにしていた。


 私はお椀を出し入れして見せて自分の能力を説明して見せた。驚いていたが「精霊すごいね」の一言で済まされてしまった。いきなり魔法が使えるようになったのだ、今さらだったのかもしれない。

 

「ミーナ、この魔石を【魔石吸収】で吸収してみて」


 私は持っていた魔石を全て【収納】から取りだし、ミーナの手のひらに乗せた。


 ミーナは不思議そうな顔で【魔石吸収】と呟いた。すると手のひらから魔石が消え吸収された始めた。ミーナの手のひらには魔石を吸収する瞬間、魔術刻印のような物が見えた。



 全ての魔石の【魔石吸収】を終えたミーナを再び【鑑定】すると――


《レベル》2/30 NEXT 魔石(小)11/20


《特技》【ウィンドブレード】2/2【ウィンドシールド】2/2【剣術】【魔石吸収】



 やはり【魔石吸収】によってレベルが上がるようだった。それにさっきの戦いでミーナの放った【ウィンドブレード】は至近距離だった事を除いても私の魔法より強力だった。


 レベルが上がって使用可能回数が増え、使用回数も回復している。レベルアップすると回復の効果があるのはゲームと同じだった。


(レベルが1だったミーナの魔力は、私より上だったのかもしれない。ミーナに魔石を与えればもっと強力になるだろうか?)


「ミーナ、そろそろここを離れましょう。狼が戻って来ないともかぎらないから」


 馬車を追っていったフォレストウルフの縄張りの可能性があるこの場所でぐずぐずしているのは得策とは思えなかったので、私達は街に向かって移動を開始したのだった。

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