第4話 酔っ払いさんに娘?

 少年姿の「おじさん」が、中年となってビールを飲む息子ほどの年齢の人物に、半ば手遅れの相手に投げかけるようなことを述べる。


「何といっても、三島ゴリラ大先生のつながりのお方だからね、君は。霊長類つながりか文士つながりか知らんが、ある意味大したものだよ」

「褒められているのやら、けなされているのやら・・・」

「どっちだと思う?」

「まあ、けなされているのでしょうね。その論調からすれば。高校の古文で習う「疑問」と「反語」の、明らかに後者の方だってことぐらい、わかりますよ」

 

「さすが天下のO大学法学部を出ただけのことはあるね。しかしなぁ、わざわざ酒飲むために、こんなところまで来て泊って、しかも日曜朝はプリキュアとか、そりゃあ、何しでかそうと自由だけど、体には気をつけな。文章書けなくなったら終りだぜ、君の場合。そうそう、最近はプリキュアに出てくる子を自分の娘とか、括弧つきで隠し子とか言っているそうじゃないか。キュアパパイアの一之瀬みのりさんだっけ?」

 自称父親は、早速、自分の娘(?)との共通点をとくと話し始めた。

「ええ、そうです。なんせ、今日の放送ではコロッケ好きということらしく、母親の話では幼少期にコロッケ食べ過ぎて腹を壊したとか。私なんか、19歳のとき急性アル中で救急車呼ばれた翌朝下宿に戻って、それから昼にカレー屋に出向いて食べたのが、コロッケカレーの大盛の大辛でしたからね。ついでに言えば、今日出てきた彼女の母親、雰囲気がねぇ、半田山小の2年のときに同じクラスだった、眼鏡かけた女の子が大人になったらこんな感じかなって姿でして。ひょっと彼女と私の間でこの子が生まれていたら、まあ、つじつま、合うなぁ、と、思った次第でして(苦笑)」

 少年の姿をしたおじさんが、おいぐらいの年齢の中年男にほとほと呆れならも言葉を返していく。

「だけど、そのみのりさんだっけ、かわいそうだな、こんな奴が父親なら・・・」

「ほっといてくださいよ(苦笑)」


 そこで、母親が一言。


 息子がなんとも好き放題言ってくれておりますけれど、申し訳ないですが米河さんにとっては、ほとんど当たっていますね、私から見ても。

 とにかく、お酒の飲み過ぎには注意してください。禁酒日を作るのも大いに結構ですけど、飲む以上はとことんとか、そういう無茶はおやめになったがよろしいかと。

 そうそう、今回のプリキュアのキュアパパイアの一之瀬みのりちゃんですか、その子を娘とか何とかおっしゃっていますが、彼女に顔向けできないようなことはなさらないで。

 いいですか、あなたは独身で天涯孤独とおっしゃるでしょうが、彼女の第三の親、あなたにとっては隠し子か何か知りませんけど、そう名乗る以上、父親として、恥ずかしくないお仕事をなさってくださいね(キッパリ)。


 実の母にも言われないようなことまで、この年で言われるとは。

 でも、仕方ないか。


「はい。そのあたりは、大いに気を付けて参ります。まだ死にたくないですので。それにしても、この数年来プリキュアを観ていてですね、毎年、出てくる娘(こ)が代るのを見ておりますとね、なんだか、養護施設を思い出しますよ。毎年春の部屋替えとかね、追加プリキュアが毎年出ますけど、なぜか途中で入所してくる子とか。学校も似たようなものですけどね、でもやっぱり、ふとした時に思い出すのは、養護施設の生活ですよ。正直思い出したくもないのですけど、それでも、思い出すのです」

「そこに、あなたが一生かけて問うべき何かがあるのではないですか?」


 母親の問いかけに、中年男は黙って頷き、ビールを飲み干した。


「そういえば去年の2月だっけ、スタートゥインクルプリキュアが終わった次の週だったかな、寿司屋で飲みながら、「ララがおらん・・・」なんて悲しんでいたろう。確か、キュアミルキーとかいう、サマーン星から来た羽衣ララって子ではなかったっけ?」

「そうですけど・・・、なんで、そんなことまでご存知ですねん」

 少年が、あの世の「からくり」を披露しつつ、おいほどの年の差のある中年男にひと説教を与える。


 それもネットに書いているじゃないか。

 江夏投手がトレードで日本ハムに移った年の衣笠選手のエビソードを引合いに出しているだろ。アリスの歌を歌いながら、衣笠選手が泣いていたっていう、あのエピソードね。

 霊界じゃあ君の関係者は皆、ネット情報を把握しているからね。

 御先祖様に顔向けできないような真似だけはするなよ!


 少年の畳みかけるような弁に、中年男はようやく缶ビールを置き、黙って頷いた。

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