第5話 この世とあの世の狭間から

 霊界と人間界の境目で話し続けること数十分。そろそろ外に出て食事がてらに一杯飲んできますと言って、中年作家はその部屋を出た。

 かの親子も、それに続いて部屋を出た。

 部屋の外には掃除係の女性がいた。彼は係の女性に一言声をかけ、エレベーターでフロントへと向かった。

 もっとも、霊界からの来客には、彼はともかく、掃除係の女性たちもフロントの係員たちも気づかない。

 彼はフロントにカギを預け、たこ焼き屋の前を通り、近くの食堂へと足を運んだ。

 その途上、誰もいないところで、かの親子は中年作家に挨拶し、去っていった。


 この後中年作家氏は、近くの食堂でビールを飲みつつ、ぶりの卵のつまみを食べた。その後別の居酒屋に移って、焼酎のボトルを頼んでそれを飲みつつカツの卵とじを一品頼み、それをつまみと昼食代わりにした。

 彼の座ったカウンターの向こうのテレビでは、セパ交流戦の阪神戦が放映されていた。

 この日は日曜。どの球場も、すべてデーゲーム。まだ暑い盛りでもないからか、ナイトゲームはない。


 この日幽霊の母子を見た人は、彼を除いて、誰もいない。


追記:米河清治氏はこの日壊れた眼鏡を、その年の8月下旬、岡山市内の眼鏡店を通して修理に出した。

 その結果、消費税込約5千500円の修理代でその眼鏡を修復できたという。

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