第2話 緊急事態・発生! そして、プリキュア、朝酒。
朝6時前に起き出した彼は、あるものを慌てて探す羽目になった。
探し物は、眼鏡。
酔った勢いでベッドの上に投げ置き、それを自分の体重で壊してしまっていたのである。2本の脚の片方が折れていた。
ただ、もう片方の脚を使えば、パソコン作業に使えなくもない。もうひとつ外出用のサングラス機能も兼ねた眼鏡も持参しており、外出時はそちらをかけて出るが、こちらは室内でも使える仕様なので、壊れためがねの代わりもなる。
彼は眼鏡の壊れたショックを引きずりつつも、早速テレビをつけた。主たる目的は、8時30分から放映されるプリキュア。彼はこの番組を観ることに血道を注いでおり、そのためには前日夜には既に携帯の電波も切っている。
そして、某SNSに「亡命」と称して、8時になるとチャンネルを変えてプリキュアを待つ。
やがて、プリキュアが始まる。
彼はそこから30分、1週間の全精力をここに傾けて、「御意見番」と称して作品の論評を某SNSに書込み、その後、編集して自分の運営するブログで公開するという「ルーティン」を実行している。彼には「お祭り野郎」的な要素があり、日常不断に同じことをこなしていく能力に少なからず欠けていると自認しているが、これだけは、彼は確実に行うべきルーティンととらえ、実行している。
このルーティンは約4年近く「皆勤(!)」で実行されていて、どこに居ようとも彼はこの時間はパソコンを立上げ、テレビの画面に向かう。
プリキュアのリアルタイム放送も終りその後の仕事も終えたら、テレビの電源を消し、携帯電話の電波を再びオンにする。
これからいよいよ、彼の1週間が本格的にスタートする。
その始まりの儀式として、彼は「プリキュア」というアニメを活用しているのである。と言えば聞こえはいいが、何のことはない。彼の「趣味」の一つであるという、ただそれだけのことを、かくも大げさな話にしているだけのこと。
彼はこの日、12時過ぎまでホテル内の自室で別の仕事をし続けた。頃合いもよくなったと見た彼は、最初に述べた通り、再びテレビの電源を入れ、NHKのBSでMLBの野球を見始めた。何と、あの二刀流の大谷翔平選手が、高校の先輩になるマリナーズの菊池雄星投手から本塁打を放ったというではないか。さすがに彼がリアルで観た次の打席では三振と相成ったが、VTRが何度も流れるので、あの本塁打をそれで確認できる。これはまあ、テレビの野球中継ならではのもの。実際に球場で観ていると、こうはいくまい。
ほどほどに仕事を仕上げた、というより煮詰まってしまった彼は、まずいったんホテルのそばにあるたこ焼きとかき氷の屋台風の店に行き、たこ焼き15個入りを買って戻ってきた。それで450円。彼が岡山市内の養護施設にいた頃、近くの岡山県総合グラウンドの近くで夏になるときていたたこ焼き売りの人から買ったたこ焼きを模い出させるような形と味。1977(昭和52)年頃、12個入りで200円だったと記憶している。
朝食も兼ねたつまみを得た彼は、冷蔵庫の扉を開け、缶ビールを1本だけ取出し、飲み始めた。朝から酒を飲むことが夢という彼だが、この日は結局、飲み始めたのは昼になりかけてから。最初の1本を飲みつつ、動画作成。
彼は、とりあえず乾杯、というのを、信念を持って乾杯! と言いかえて、ビールを飲み始めた。
やがて彼はたこ焼きをつまみながら4本の缶ビールを開けた。
4本目を飲み始めると同時に、彼は動画撮影を終了した。相変わらず、試合は続いている。この日は菊池投手が5回途中で打球を脚に当てられて降板。その後試合はエンゼルスのペースに。ベテランと思しき投手に勝ち星がつき、大谷選手は最終打席にも安打を放った。
時計の針は、既に13時を幾分回っている。
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