幽霊騒動シリーズ ~ニチアサの後、宴の前(未完)

与方藤士朗

第1話 久々の、店酒(ミセサケ)

 わざわざ「自称作家」を自称し始めて数年になる米河清治氏。この日は思うところあってか、自宅のある岡山市から特急列車に乗ること約40分、瀬戸大橋を超えた香川県の丸亀市に来て、その駅前にあるホテルに宿泊している。時間はすでに昼過ぎ。それまで彼はせっせとパソコンで作業をしながらも珍しくテレビをつけ、メジャーリーグ(MLB)の野球中継をNHKのBSチャンネルに合せて観ていた。


 彼の住む岡山県は緊急事態宣言が発令中で、飲食店が早いうちに閉まるだけでなく、酒類の提供も一切されない。また、カラオケを扱う店もまた、営業を「自粛」させられている。その横隣は、東は兵庫県、西は広島県。そのどちらも、これまた緊急事態宣言を発令されており、岡山県と同じような状況。どちらに行っても、周辺の図書館は縮小営業をかけている。

 彼は、5月17日の緊急事態宣言が効力を持ったその日こそ自宅に戻って残っている缶ビールを飲んだものの、その後は少なくとも平日はほとんど酒を飲まずに過ごした。その翌日5月17日からが第一次、次の土日は出張先のホテルで飲んだものの、翌週24日(月)から29日(土)夜までが第二次、日曜日を禁酒して翌31日(月)に自宅で飲んで、月が変わって6月1日(火)から5日(土)の夕方までを第三次のそれぞれ禁酒期間と標榜して、なぜか、酒を飲まずにやってきた。

 そんな彼だが、5日目にもなると、どういうわけかいろいろな意味で耐えられなくなってきた模様。


 彼は土曜の昼下がり、岡山から特急列車に乗ること約40分、四国は香川県丸亀市にやってきた。そしてホテルにチェックインしてしばらく仕事した後、ホテルの自転車を借りて少し遠いスーパーマーケットに出向いた。ここで彼は、迷うことなくヱビスビールの6本パックを買込んだ。さらに酸化防止剤無添加ワインと小瓶ウイスキーをかごに入れ、パン売場に急いだ。しかし、彼のお目当てのパンは見つからなかった。今年の「トロピカルージュプリキュア」の主人公が描かれた「トロピカルメロンパン」という商品を探してのこと。だがこのスーパーにも、お目当ての品はなかった。彼はやむなく、別の半額になったパンとチーズを買込み、レジに並んだ。レジ袋を持ってきていない彼は、大きいタイプのそれに5円を費やした。買物は終わった。帰りの駄賃で彼は、周辺の別のスーパーやコンビニエンスストアにも立寄ってパンコーナーに寄ったが、そのお目当ての品は結局なかった。やむなく彼は、来た道を少し変えて市内散策を兼ねつつ、自転車でホテルへと戻った。戻って彼は、冷蔵庫のスイッチをオンにし、ビールやワインを冷やした。


 メールチェックをした後、彼は、駅前ビルの2階にある居酒屋に行き、カウンターの真ん中に座り、野菜天をつまみに久々の瓶ビールを飲んだ。両隣には1席ずつ挟んで地元の常連客と思しき人たち。この店も「時短」営業をしているが、酒を出していないわけではない。テレビは、この日唯一のナイトゲームである巨人対日本ハム戦を放送中。

 彼はこの後、ホテルの自室に戻り、早めに寝床に着いた。

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