第65話 『誰』

脳が欠陥品と判明したので良品に交換して貰うことにした。

配送も終わったのであとは待つだけ。

これで仕事のミスも、無駄にざわつく不安感もなくなる。薬の量も減らせるかもしれない。

出ていった妻子も戻ってきてくれるかもしれない。

仕事も辞めなくて済むかもしれない。

何もかもに我慢してうつ向いているだけの生活もやめられるかもしれない。


僕は玄関まで椅子を持ってきて座って待つことにした。


それにしても、

何故欠陥品の脳と判明したんだっけ?

誰に指摘されたんだっけ?

僕はどこに欠陥品の脳を送付したんだっけ?

誰に送付先を教えて貰ったんだっけ?

良品の脳を作っているのは誰なんだっけ?

良品の脳なんて作れるんだっけ?

良品の脳になった時点で自分じゃなくなるんじゃないっけ?

自分じゃなくなった自分で妻子を取り戻したいんだっけ?

ほんとは欠陥品のままで愛してほしかったんじゃなかったっけ?

ほんとってなんだっけ?


それにしても、

届くまでの間脳がないはずなのにこれを書いているのは『誰』なんだろうか?

それにしても、

その『誰』は何でこんなことを書いてあなたと繋がろうとしているんだっけ?

あなたとは僕とは誰とは一体『誰』なんだっけ?


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